配偶者が不貞行為に及んでいた場合、不貞の相手方に慰謝料を請求することができます。
これは、不貞をしたことそれ自体によって生じた精神的苦痛についての慰謝料(不貞慰謝料)です。
不貞行為は、民法上は一方配偶者に対する不法行為(民法709条)に当たります。不法行為は、被害者が損害及び加害者を知ったときから3年間を経過すると、消滅時効により、損害賠償請求をする権利が消滅してしまいます。(民法724条1号)
そのため、不貞行為があったことを知ってから3年間が経過してしまった場合、基本的には不貞の相手方に慰謝料を請求することができなくなります(相手方が時効の完成を知ってなお支払うことは可能ですが、通常は支払うことはありません。)。
ところで、不貞行為など、配偶者の行為によって離婚せざるを得ない状況になった場合に、夫婦の一方が配偶者に対して、離婚の原因となった行為自体についての慰謝料の請求ができるのは当然として、離婚を余儀なくされたことについての慰謝料(離婚慰謝料)を請求することもできます。
これと同様に、不貞が離婚の原因となった場合には、不貞の相手方に対して、離婚したことについての慰謝料を請求することができるのではないかと考えられていました。
もし、不貞の相手に対して離婚慰謝料の請求をすることができるとすれば、離婚慰謝料の請求権は、離婚した時点から消滅時効が起算されることになるので、不貞慰謝料が消滅時効により請求できなくなった後でも離婚慰謝料の請求ができる場合があり、慰謝料請求をすることができる余地が広がることになります。
この点が争われた最高裁判所の判例があります(最高裁第三小法廷判決平成31年2月19日)。
本事案では、請求者は配偶者の不貞行為を知ったものの、離婚せずに別居していたところ、不貞行為を知ってから3年以上経過した後に離婚することとなりました。そのため、上記のとおり、不貞相手に対する不貞慰謝料請求権は時効により消滅していることから、不貞相手に対し離婚慰謝料を請求したという事案です。
結論からいうと、この請求は認められませんでした。
最高裁判所の判示内容は以下の通りでした。
「夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、 協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって、夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は、これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても、当該夫婦の他方に対し、不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして、直ちに、当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは、当該第三者が、単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず、当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば、夫婦の一方は、他方と不貞行為に及んだ第三者に対して、上記特段の事情がない限り、離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。」(下線筆者)。
離婚するかどうかはあくまで夫婦間の問題で、不貞行為があったからといって離婚するとは限りませんから、原則として、不貞行為をしたことのみを理由に、その先の離婚によって生じた精神的損害を賠償する義務はないという判断でした。
例外的な場合を除けば、不貞相手に対し不貞行為の慰謝料を請求する場合は、不貞行為の存在を知ってから3年以内に請求しなければなりません。今回紹介した判例のように、不貞行為の発覚後に別居期間を設ける場合などには、その後離婚することとなっても、消滅時効が成立してしまっていて不貞相手に慰謝料の請求ができないという事態に陥る可能性もあるので注意が必要です。
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