モラハラの加害者は、いかなる場合にも自分が正しいことを当然の前提として、被害者を責めます。
そのため、被害者も「相手が正しく自分が間違っているから怒られるんだ」と思い込むようになり、苦しい思いをしながらも、自分がモラハラの被害者であるとの意識が希薄になりがちです。しかも、被害者の「自分が間違っている」という意識は、加害者の「自分が正しい」という意識を増長させ、悪循環に陥ります。
離婚を切り出した際に、怒鳴られる、脅される、行動を制限されるといった不安がある場合は、一人で相手を説得しようとする必要はありません。
まずは、安心して過ごせる場所や、困ったときに連絡できる人・相談先を確認しましょう。同居を続けることが心身の負担になっている場合には、別居も選択肢となります。避難先や生活の支援については、配偶者暴力相談支援センターなどに相談できます。相談先が分からない場合は、DV相談ナビ「#8008」から最寄りの相談窓口につながります。
安全に準備できる状況であれば、別居先、当面の生活費、仕事、お子さまの通園・通学などを整理しておくと、その後の生活について具体的に検討しやすくなります。
「自分の収入だけでは生活できない」という不安があり、別居に踏み切れない方もいらっしゃるかもしれません。
別居していても、離婚が成立するまでは、夫婦の収入やお子さまの養育状況などに応じて、相手に生活費の分担を求められる場合があります。この生活費を「婚姻費用」といいます。
相手が支払いに応じない、金額の話し合いができない場合には、家庭裁判所の調停・審判を利用できます。別居を検討する際には、住まいの確保とあわせて、婚姻費用の請求についても確認しておきましょう。
協議離婚は、夫婦が離婚に合意し、離婚届を提出して受理されることで成立する離婚です。裁判所を利用せずに進める方法ですが、離婚することだけでなく、子どもやお金に関する条件も整理しておくことが大切です。
ただし、協議離婚だからといって、「必ず夫婦が直接会って話し合わなければならない」わけではありません。弁護士を代理人として、離婚の意思や希望する条件を伝え、交渉を進めることもできます。
相手に強く言われると自分の希望を伝えられない、話し合うたびに責められてしまうという場合は、直接のやり取りを続けることだけにこだわらず、交渉の方法を見直しましょう。
また、相手が離婚に応じない場合や、条件の話し合いが進まない場合には、離婚調停の利用を検討します。
離婚調停は、家庭裁判所で、調停委員を介して離婚やその条件について話し合う手続きです。
夫婦で話し合っても合意できない場合だけでなく、相手への恐怖などから話し合い自体が難しい場合にも利用できます。調停を申し立てる前に、無理に夫婦だけで話し合いをする必要はありません。申立先は、原則として相手の住所地を管轄する家庭裁判所、または双方が合意した家庭裁判所です。
調停では、通常、双方が別々の待合室で待機し、交互に事情を聞いてもらいながら進めます。相手と顔を合わせることや、裁判所への行き帰りに接触することが心配な場合は、事前に裁判所へ事情を伝え、進め方を相談しましょう。また、裁判所に提出した資料が相手に開示される場合もあるため、避難先の住所などを知られたくないときは、書類を提出する前に確認することが重要です。
調停では、離婚するかどうかに加え、親権、養育費、財産分与などについても話し合えます。ただし、判決のように裁判官が一方的に離婚を決める手続きではありません。離婚調停が成立するには、双方の合意が必要です。
調停でも離婚に合意できず、引き続き離婚を求める場合には、家庭裁判所に離婚訴訟を起こすことを検討します。離婚訴訟は原則として調停を経てから行う手続きであり、調停が不成立になっただけで、自動的に裁判へ移るわけではありません。
モラハラを理由に判決による離婚を求める場合は、主に民法第770条第1項第4号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかが問題となります。相手の言動や夫婦関係の経緯などから、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがないといえるかを検討することになります。
そのため、「モラハラを受けていた」と伝えるだけでなく、具体的にどのような言動があったのか、それがどの程度続いていたのか、生活にどのような影響があったのかを整理することが大切です。ご自身の説明を裏付ける資料についても確認します。
具体的な証拠の残し方・集め方については、後述の「モラハラの証拠の残し方・集め方」で詳しく解説します。
「早く離婚したい」と思っていても、相手から示された条件を、その場で受け入れる必要があるのかは慎重に検討しましょう。離婚後の生活を考えるうえでは、次のような事項を整理することが大切です。
| 確認する事項 | 整理しておきたい主な内容 |
|---|---|
| 子どもに関すること | 親権、子どもの生活場所や養育方法、養育費、親子交流 |
| 財産に関すること | 預貯金・不動産などの財産分与、住宅ローンの取り扱い、年金分割 |
| 慰謝料に関すること | 請求の可否、金額、支払期限・支払方法 |
これらは、離婚調停などで離婚とあわせて話し合うことができます。
2026年4月1日施行の改正により、離婚後の親権は、父母双方を親権者とする「共同親権」と、一方を親権者とする「単独親権」のいずれも選択肢となりました。離婚したら必ず共同親権になるわけではありません。
精神的DVなどにより、父母が共同して親権を行うことが困難であると裁判所が認める場合には、単独親権としなければならないとされています。相手との話し合いが難しい事情や、お子さまへの影響がある場合は、その具体的な状況を踏まえて検討することが大切です。
離婚の条件に合意した場合は、口約束だけにせず、離婚協議書などの書面に残しましょう。養育費などの金銭の支払いについては、不払いに備えて、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することも検討します。
大切なのは、相手の要求をそのまま受け入れることではなく、ご自身とお子さまの生活に必要な条件を確認したうえで、離婚の進め方を決めることです。相手との対等な立場での交渉が難しい場合は、弁護士に依頼し、間に入ってもらうこともご検討ください。
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