離婚の際には、婚姻期間中に夫婦が形成した共有財産について、「財産分与」をすることになります。
財産分与には議論があるものの、
また、慰謝料は、当然には財産分与の中には含まれませんが、財産分与の中で扱うことも可能です(慰謝料的財産分与)。
財産分与によって、財産を相手に給付することになりますが、ではこの財産分与には譲渡所得税が発生するのでしょうか?
上記のような財産分与の性質から見ると、本来すでに成立している法律関係に基づいて給付がなされるというだけであり、譲渡所得税がかかるような「譲渡」ではないのではないかが問題となります。
個人が何らかの所得を得ると、それに対して所得税がかかります。
所得は、その成立によって10種類に分類されており、その中の1つに譲渡所得があります。
そして、譲渡所得とは、所得税法第33条に次のように規定されています。
【所得税法第33条】
譲渡所得とは、資産の譲渡(建物又は構築物の所有を目的とする地上権又は賃借権の設定その他契約により他人に土地を長期間使用させる行為で政令で定めるものを含む。以下この条において同じ。)による所得をいう。
このように、譲渡所得とは、「資産の譲渡による所得」とされています。
そして、裁判所はこの譲渡所得の本質について、次のように考えています(榎本家事件判決 最判昭43・10・31訟月14・12・1442)。
譲渡所得に対する課税は、
「資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益」を所得として、その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に、これを清算して課税する趣旨である。
上記のように、譲渡所得は、具体的に得た「譲渡の対価」に対する課税ではなく、課税せずに放置をしてきた所有資産の増加益に対する課税であり、その資産を手放すときに、これを清算して課税するものと考えられています。
この考え方を清算課税説といいます。
ただ、譲渡所得の金額を計算するという場面では、
「譲渡により実際どのくらいの収入を得たのか」
については重要な要素となります。
では、譲渡所得を発生させる「資産」とは何を指すのでしょうか?
ここで清算課税説という考え方を前提とすると、
譲渡所得を発生させる「資産」とは、増加益、つまり値上がりするような物がすべてこれに該当することになります。
そのため、経済的な価値があり、他人に移転可能なあらゆるものが、
譲渡所得を発生させる「資産」ということになります。
例えば、不動産や動産の所有権は当然のことながら、契約上の地位なども「資産」に該当します。
他方で、現金や金銭債権は、経済的な価値があり、他人に移転可能ではありますが、誰が持っていても価値は変わらず、増加益を考えることはできないため、譲渡所得を発生させる「資産」には当たりません。
次に、譲渡所得を発生させる「譲渡」とは何を指すのでしょうか?
裁判所は、清算課税説の考え方を前提として、
有償無償を問わず、資産に対する所有などの支配を他人に引き継がせるあらゆる行為が「譲渡」に当たる
と判断しています。
そのため、必ずしも所有者の自由な意思に寄らない強制的な場合であっても「譲渡」にあたります。
また、対価を受け取るかどうかは「譲渡」の意義とは関係がありません。
例えば、売買や代物弁済などは当然「譲渡」に当たりますし、公売や強制収用、対価を得ない贈与であっても「譲渡」にはあたります。
では、財産分与は譲渡所得を発生させる資産の「譲渡」に当たるのでしょうか?
財産分与が「譲渡」に該当するかについて、裁判所は清算課税説を前提として、次のように判断しました(名古屋市医師財産分与事件判決、最判昭50・5・27判時780・37)。
夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる(民法768条、771条)。
この財産分与の権利義務の内容は、
権利義務そのものは、離婚の成立によって発生し、実体的権利義務として存在するに至る。
当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。
そして、財産分与に関して、当事者の協議等が行われて、その内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、財産分与の義務は消滅する。
この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。
したがって、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによって、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである。
このように、裁判所は、
夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる(民法768条、771条)。
この財産分与の権利義務の内容は、
権利義務そのものは、離婚の成立によって発生し、実体的権利義務として存在するに至る。
当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。
そして、財産分与に関して、当事者の協議等が行われて、その内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、財産分与の義務は消滅する。
この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。
したがって、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによって、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである。
このように、裁判所は、
財産分与による資産の移転は分与者、すなわち、資産を手離した人にとって「譲渡」に当たると判断しました。
課税実務においても、同様の扱いがされています。
もっとも、裁判所は財産分与を贈与のような、「無償による資産の譲渡」とは考えていません。
分与者は分与により「分与義務の消滅という経済的利益を享受した」と判示していることから、財産分与は、財産分与義務の消滅という経済的利益を対価とした有償譲渡であると考えれられています。
そして、財産分与をした者は「分与義務の消滅という経済的利益を享受した」ことになるため、この債務(分与義務)消滅益の価額が譲渡所得税の金額を計算する上での収入金額となりますが、この債務消滅益の価額は、財産分与をした時の当該資産の価額(時価)と等しいと考えられます。
そのため、財産分与をした人は、その分与をした時において時価により当該資産を譲渡したことになります(所基通33-1の4)。
そこで、財産分与時の価額が、その資産を取得した時の価額より高くなっていた場合には、譲渡所得税が課せられることになります。
もっとも、財産分与が現金で行われる場合には、譲渡所得税は発生しません。
なぜなら、現金は値上がり、値下りがなく、譲渡所得を発生させる「資産」ではないからです。
以上のように、財産分与においても現金を除いては、譲渡所得税がかかることになります。
この譲渡所得税の額は、次のように計算されます。
譲渡所得額=総収入金額-(資産の取得費+譲渡費用)-特別控除額(50万円)
=総収入金額-{(資産の取得に要した費用+改良費+設備費)+譲渡費用}-特別控除(50万円)
ここで、譲渡をする対象資産が居住用不動産である場合には、課税特例の適用が受けられます。
要件は簡単にまとめると次のとおりです。
上記に該当する場合には、所有期間の長短にかかわらず、譲渡所得から最高3,000万円までの控除を受けることができます。
ただし、この特例は夫婦間の譲渡の場合には認められないため、
・離婚後に譲渡を行う
あるいは
・他人に不動産を売却し現金化をしてから、現金を財産分与する
必要があります。
また、この特例を受けるためには、確定申告をする必要があります。
以上のように、財産分与はどの財産をどのように分与するかという問題もさることながら、現金以外を財産分与する場合には譲渡所得税がかかってきます。
そのため、財産分与を検討するにあたっては、譲渡所得税も考慮しておかなければ、分与後になってから、多額の譲渡所得税を支払わなければならないことに気づき、後悔することになるおそれがあります。
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令和6年4月25日に名古屋家庭裁判所に夫婦関係調整(離婚)調停申立事件 について家事調停を申立てました。
令和6年4月10日に名古屋家庭裁判所に婚姻費用分担調停申立事件 について家事調停を申立てました。
令和6年4月3日に名古屋家庭裁判所岡崎支部に離婚請求事件 について審判が出ました。
令和6年4月2日に名古屋家庭裁判所に夫婦関係調整(離婚)調停申立事件 について家事調停を申立てました。
令和6年4月2日に岐阜家庭裁判所に離婚等請求事件 について審判が確定しました。
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