開業医は自営業者であるため、開業医との離婚においては、勤務医と異なる開業医特有の問題を生じます。具体的には、
などです。以下、順番に説明します。
医療法人を設立して開業している医師の場合には、配偶者との離婚に際して、配偶者の医療法人に対する出資持分の返還の問題が生じます。
これは、平成19年3月31日以前には出資持分のある医療法人を設立することが認められていたところ、出資持分のある医療法人の定款には、通常、社員の退社時において出資持分の返還に関する規定があるため、開業医との離婚により配偶者が医療法人を退社する場合に、出資持分の返還を求められることから生じる問題です。
このような配偶者からの出資持分の返還の請求については、原則、退社時の医療法人の総財産に退社する配偶者の出資額の総出資額に対する割合を乗じた金銭の返還を行う必要があります。その額は非常に高額となることがあり、そもそも返還することができない場合が生じたり、また、返還に応じることにより病院の経営に甚大な影響を与えるなどの問題が生じます。
財産分与の対象となる財産は夫婦の共有名義の財産及び実質的夫婦共有財産であり、これは開業医でも同じことです。もっとも、開業医の場合には、他の自営業者と同じように医師個人の財産と病院の財産の区別の不明瞭性のため、財産分与の対象となる財産を明確に決定できないことがあります。この場合、開業医である配偶者としては病院名義の財産は個人の財産ではないから財産分与の対象にはならない旨主張することになるのですが、たとえば、開業医である配偶者につき特に必要性がないのに個人財産を使用して病院名義の財産を増やすなどの事情のある場合には病院名義でも実質的には夫婦共有財産として財産分与の対象とされることもあるので留意すべきです。
一般的には財産分与の分与割合は2分の1です。これは、実務上「2分の1ルール」と呼ばれていて、財産分与の割合は、原則として2分の1であり、これと異なる割合での分与を求める場合には、その根拠となる特段の事情を主張・証明しなければなりません。
この2分の1ルールの背景には、夫婦共有財産の形成に対する寄与は基本的には平等であるとの価値判断にあるところ、開業医は、その職種は医師という国家資格に基づく高度の専門職であり、病院の経営は個人の才覚によるところが大きいことから、この2分の1ルールの修正を図られることがあります。
ある裁判例では、高額な収入の基礎となる特殊な技能が婚姻前の本人の個人的な努力によっても形成されて、婚姻後も、その才能や労力により多額の財産が形成された場合などには、そうした事情を考慮して分与割合を決定すべきであるとして、開業医である夫の分与割合を6割、妻の分与割合を4割として2分の1ルールを修正しました(大阪高等裁判所平成26年3月13日判決)。
離婚する夫婦に未成年の子のいる場合には、その子の親権者を指定しなければなりません。このとき、開業医である配偶者が子を病院の跡継ぎにしようと考えていた場合には、その親権を巡り対立が生じることがあります。
現実的には、未成年の子を現実に養育しているのは母親であることなどから、母親が親権者として指定されることが多いため、特に夫が開業医であり、妻が医師ではない場合において、子を病院の後継者として希望している場合には、子の養育者として開業医である配偶者が他方配偶者より適切であるということを具体的に主張する必要があります。但し、病院の後継者としたいという事情は、あくまで親の希望であり、子の福祉の観点から判断される親権者の指定においては、あまり重視されることはないでしょう。
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