弁護士 杉浦 恵一
夫婦間や婚約者間など一定の関係がある当事者間では、例えば浮気があった場合に、将来の慰謝料(損害賠償)の予定をすることが散見されます。
今回は大目に見て許すけど、次は罰(慰謝料)を決めて防止したい
将来の浮気を防止するために高額の慰謝料の予定をすること、例えば、
次に浮気をしたら慰謝料1000万円を直ちに支払います。
などといった誓約書を書いてもらうという場合も見られます。
このような将来の慰謝料(損害賠償)の金額を予め決めておくことは、どのような場合・金額でも有効なのでしょうか?
まず、民法420条では、以下のように定められています。
1 | 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。 |
---|---|
2 | 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。 |
3 | 違約金は、賠償額の予定と推定する。 |
このように、民法では、債務の不履行、つまり約束が破られた場合の損害賠償を予定することを認めています。
将来的に浮気をした場合の慰謝料額を決めておくことも、民法上は有効です。
ただし、特別法で賠償額の予定ができない場合もあります。
労働基準法では、
「従業員に賠償額の予定や違約金の額を定めてはならない」
とされています。
では、どのような金額の慰謝料(損害賠償)の予定も有効だと認められるのでしょうか?
過去の裁判例では、
二度と浮気をしないという約束とともに、この約束を破って浮気をした場合には、5,000万円を賠償するという誓約書を作成した事例
で、この賠償の約束に基づいて5000万円の支払いを求める裁判を起こしたところ、裁判所は、このうち1000万円の支払いを認めた。
という裁判例があります。
この裁判例では、裁判官は、
つまりこの裁判例では、
という内容です。
ここで出てくる民法90条は、
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
という条文です。
つまり、あまりに高額な慰謝料は、公の秩序又は善良の風俗(略して「公序良俗」)に反して無効だと判断されたということです。
日本の裁判所は、前述のような
「民事関係の法律一般に用いることができる社会通念」
を使って、一部の法律行為を無効とする場合があります。
他には、民法1条3項で、
権利の濫用は、これを許さない。
という条文もありますので、この条文を使って一部の法律行為を無効とする場合もあります。
賠償額の予定をしている以上、請求する権利はあると言えます。
しかし、実際に裁判に訴えて取り立てるところまでいくと、権利を濫用しているという判断になりそうです。
前に挙げた裁判例では、訴えられた方は、
「民法93条但し書きや民法94条によって無効だ」
とも主張していました。
しかし、この裁判例では、この主張は認められませんでした。
民法93条とは、いわゆる心裡留保(しんりりゅうほ)と言われるものです。
条文は、
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。
ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意でないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
というものです。
例えば、将来の慰謝料の予定で言えば、
高額な慰謝料の約束をしたのはあくまで浮気を防止するためのもので、お互いに高額な慰謝料が取れるとまでは思っていなかった
という場合、将来の慰謝料の約束は無効になる場合もあります。
また、民法94条は、いわゆる通謀虚偽表示(つうぼうきょぎひょうじ)と言われるものです。
条文は、
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
というものです。
これを将来の浮気の慰謝料にあてはめて考えるのは簡単ではありません。
しかし、例えば、
① 浮気相手に対して、
「浮気をしたら配偶者が高額な慰謝料を支払うから浮気をやめるよう」
と言って警告するため
② お互いに慰謝料を支払うことがないと認識して作られた誓約書
のような場合は、当てはまるのではないかと思われます。
このように、将来の浮気の慰謝料(損害賠償)の予定は、一般論としては有効です。
しかし、あまりに高額だと一部無効になる可能性もありますので、注意が必要でしょう。
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令和6年4月2日に名古屋家庭裁判所に夫婦関係調整(離婚)調停申立事件 について家事調停を申立てました。
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