弁護士 劉 可心
婚姻費用は、双方の収入を考慮して算定されます。典型的なケースでは、双方の給与収入から、裁判所が公表している算定表に基づき決定されます。他方で、中には、夫婦の一方が不動産を所有しており、ここから賃料を得ているケースも存在します。特に、当該不動産や株が相続や贈与によって取得した特有財産である場合、そこから得られる収入も、婚姻費用の算定において、考慮されるのでしょうか?
結論から言うと、考慮される可能性は高いです。
・申立人・抗告人(権利者側)の収入は元々96万円だったが、別居前後で退職扱い(義務者が経営する会社で勤務)。平成30年以降は年収100万円が相当と認定。
・相手方(義務者側)は会社役員で、平成30年の収入は、給与収入600万円、自社株の配当金200万円、年金収入128万円、不動産所得20万円として認定。
「イ また、相手方は、平成29年8月には、●●●からの株式配当として200万円を得ている。これは、税理士と相談の上、相手方への配当金の名目で支払われたものにすぎないのであるから(引用の上補正した原審判1(2))、婚姻費用分担額の算定に当たっては、相手方に対する給与収入と同視し得るとみるべきである。
ウ さらに、相手方は、配当金以外に、平成27年と平成28年に、公的年金として各年約128万円を受け取っていたから、平成29年以降も同程度の公的年金を受給しているとみることができる。年金収入は、職業費を必要としておらず、職業費の割合は、給与収入(総収入)の2割程度であるから、上記年金収入を給与収入に換算した額は、上記年金額を0.8で除した160万円となる(128万円÷0.8)。
加えて、相手方は、平成28年に不動産所得約20万円を得ており、これを標準的算定表の給与収入に換算すると25万円程度となる。
エ 以上によれば、標準的算定表に当てはめる相手方の収入は給与収入985万円となる。
(計算式 600万円+200万円+160万円+25万円)」
「相手方は、相手方の配当金や不動産所得に関し、『抗告人との婚姻前から得ていた特有財産から生じた法定果実であり、共有財産ではない』から、婚姻費用分担額を定めるに当たって基礎とすべき相手方の収入を役員報酬に限るべきである旨主張する。
しかし、相手方の特有財産からの収入であっても、これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば、婚姻費用分担額の算定に当たって基礎とすべき収入とみるべきである。」
特有財産自体は原則として財産分与の対象とならないことから考えて、特有財産からの収入も婚姻費用算定上、考慮しないという見解も十分成り立ちそうではありますが、この裁判例はその立場を取らず、婚姻費用の算定で考慮したものです。ただし、「これが双方の婚姻中の生活費の原資となっているのであれば」という留保がついていることから、特有財産からの収入が生活費に全く充てられないような場合は除外されるでしょう。このため、必ずしも不動産収入等が婚姻費用の算定で考慮されるとは限りませんが、多くの世帯ではこれらの収入を生活費に充てていると思われますので、多くの場合は不動産等からの収入も考慮した婚姻費用が請求できる、という結論となるでしょう。
もう一つの重要な点は、給与収入と違い、特有財産からの収入には職業費がかかりません。一般的に、給与所得者は被服費、交通費、交際費など、就労するために様々な費用が掛かるので、この分を職業費として考慮し、基礎収入が算定されています。職業費はおおむね、総収入の20%と言われているので、職業費がかからない収入を給与収入に換算するときは、0.8で割り戻すこととされています。本件では、配当金は自社株からのものであり、実質的には給与収入と何も変わらないものであるため、割り戻しはされていませんが、年金収入と不動産収入については割り戻して給与換算されています。そのため、これらの収入については、実際の額よりも高額のものとして考慮されます。
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