弁護士 田中優征
年金収入で生活をされている中で、配偶者に婚姻費用を請求できるのか、あるいは配偶者から婚姻費用の支払いを求められるのか、不安に感じている方もいらっしゃると思います。
婚姻費用・養育費の算定は、例外的な場合を除き、算定表を用いて行われています。
算定表への適用においては、給与収入や事業収入の場合、それぞれ算定表に数字が用意されていますので、その数字の最も近いところを見て算定をします。
これに対し、年金収入の場合には、そのまま数字を見て当てはめることができません。
算定表の作成された前提として、事業所得者の場合には仕事を遂行するためにかかった費用が経費として控除されているのに対し、給与所得者の場合にはそういったものがないため、不平等になる可能性があることから、給与所得者についても一定の仕事の遂行のための費用を職業費として控除して算定することになっています。
しかし、年金収入者の場合、このような職業費はかかりませんので、給与収入として算定表に当てはめると、算定表が意図しているよりも多くの生活費が確保されることになってしまいます。
そこで、年金収入者の収入を給与収入に換算して婚姻費用・養育費を算定する場合、職業費がかかっていないことを考慮して修正することが一般的です。
この点について判断した裁判例を紹介します。
〈東京高裁 令和4年3月17日〉
妻(抗告人)が夫(相手方)に対し、別居中の婚姻費用を支払うように求めた事案です。令和2年6月から別居が開始されており、妻の収入は年金収入のみであるのに対し、夫は令和3年8月まで個人事業をしており、事業の収入がありました。
『抗告人の年金収入は年額39万2160円に相当するところ、年金収入については給与収入と異なり職業費の支出を考慮する必要がないため、近時の統計資料に基づく総収入に占める職業費の割合(おおむね18~13%であり、高額所得者の方が割合が小さい。本件報告書参照)のうち15%を採用して給与収入に換算すると、おおむね年額46万円(392,160÷(1-0.15)=461,364)となる。』
『…相手方は、令和3年8月までは石材業による事業収入と、年額144万4315円の年金収入とを得ていた…。』『相手方の事業収入については、…所得金額31万9121円に、現実に支出されていない青色申告特別控除額65万円及び減価償却費63万2913円…を加算した160万2034円から、社会保険料12万0400円を控除した年額148万1634円と認めるのが相当である。また、上記のように算定した事業収入は、既に職業費に相当する費用を控除済みのものであるから、年金収入を事業収入に換算するに当たっても、上記…のような修正計算は必要ない。したがって、相手方の令和3年8月までの収入は、事業収入に換算すると、上記事業収入と年金収入を合算したおおむね年額292万円(1,444,315+1,481,634=2,925,949)に相当するものと認められる。』
この事案は、双方に年金収入があり、夫は令和3年8月までそれとは別で事業収入があったため、算定表への適用にあたり、妻の年金収入は給与収入へ、夫の年金収入は事業収入へ換算し、事業収入と合算するという処理がそれぞれ必要であった点が特徴的でした。
そして、年金収入から給与収入への換算する方法については、一般的な職業費の割合が15%程度であることから、年金収入を(1-0.15)で割った数字を採用しています。
これに対し、年金収入から事業収入へ換算する方法については、事業収入については既に経費として給与所得者における職業費が考慮されていることから、特段修正が必要ないとしています。
このように、年金収入がある場合に婚姻費用をどのように算定するかは、個別の事情に応じて異なり、場合によっては職業費分を考慮する等、特殊な処理をする必要があることがあります。
本稿では、年金収入者が算定表への適用をするにあたっての処理方法について判断した裁判例を見てきました。
ご自身や配偶者が年金収入者である方で、婚姻費用の請求を考えている方、婚姻費用の請求を受けている方は、適正な婚姻費用額がいくらになるのか、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
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