財産分与の対象は、基準時(別居日などの夫婦の経済的協力関係がなくなった日)における共有財産です。
そのため、相続や親からの贈与金、婚姻前から保有していた預貯金などの特有財産については、財産分与の対象外となります。
しかし、実際には、長年の婚姻生活のなかで、共有財産と特有財産とが渾然一体となっていることも多く、このような場合、財産分与の対象財産の範囲が問題となってきます。
この点、夫婦のどちらに属するのか分からない財産については、共有財産であると推定されますので、(民法762条2項)、特有財産であると主張する側がそれを立証しなければなりません。
そして、実務では、単に相続で取得したことや婚姻前に預貯金を保有していたことだけを示しても、特有財産だとは認めてもらうことはできません。基準時に有する財産のなかに、特有財産が残存していることの立証までも求められます。
特に、特有財産が普通預金口座に入金されたあと、口座において生活費のために給与などが出入金を繰り返したなどの場合には、お金には色がついていませんので、基準時の財産のなかに特有財産が残存していることを立証するのは、非常に難しいです。
では、特有財産であることの明確な立証ができなかった場合、それでも何らかの考慮が働くことがあるのでしょうか。
この点について、原審と抗告審とで、判断が分かれた裁判例がありますのでご紹介します。
下記裁判例は、夫が、別居時の夫名義の預貯金残高のうち、2883万7500円については、父の相続で取得した特有財産であるから財産分与の対象外だと主張したことから、かかる主張が認められるのかが問題となりました。
原審:東京家庭裁判所 令和3年11月25日審判
抗告審:東京高等裁判所 令和4年3月25日決定
抗告人 夫 婚姻後、大学を卒業し大学院に通い、平成10年、税理士資格を取得
その後、税理士事務所を経営するとともに有限会社を設立
被抗告人 妻 専業主婦として3人の子を育てた
昭和60年12月 婚姻
平成20年 夫が父の相続で2882万7500円を取得
平成27年8月 夫が自宅を出るかたちで別居
令和元年8月 裁判離婚
原審も抗告審も、夫が父から2883万7500円の預金を相続したことを前提に、2つの定期預金(原審と抗告審とで認定額は多少異なりますが、約888万円)については、特有性を認めましたが、その余の口座については、特有性を否定しました。
原審も抗告審も、預金の流れを分析し、相続で取得した時点から別居時までの預金の流れを追うことができないものについては、基準時残高に特有財産が残存していたことを裏付ける資料がないとして特有財産性を否定しています。
そのうえで、原審と抗告審とでは、そのあとの判断がわかれました。
原審では、預金口座の特有財産性を否定したことで、それ以上特有財産について何らの考慮もしませんでした。
これに対し、抗告審は、次のように述べて、一部の特有財産性を考慮した財産分与を決定しました。
「もっとも、抗告人の相続した2882万7500円の預金は高額であり、相手方には収入がなく、一方で抗告人の基準日までの収入に照らして、同相続預金の取得は、後記(3)の番号2-6の預金において考慮する部分を除き、資料上は特定できないものの、基準日における抗告人名義の財産を増加させ、あるいはその費消を免れさせたものと推認できるから、それを本件における財産分与において、合理的な範囲で考慮するのが相当であるので、後記認定のとおり、上記相続預金の取得の事実を財産分与における一切の事情として考慮することとする。」
(略)
「抗告人は、平成20年■月■■日の父死亡による相続により約2883万円もの多額の預金を相続しており、上記3(3)の番号2-6の預金において考慮した約888万円の預金を控除しても、約2000万円の預金を取得していたものであるから、これらの預金により、基準時財産が増加し、あるいは支出を免れたことが推認されるところ、これらの事情のほか、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、抗告人から相手方に対し、財産分与として5000万円を支払うものとするのが相当である。」と改める。
一般的な感覚からすれば、基準時から7年前に約2883万円もの預金を相続したのであれば、仮に特有財産の立証ができなかったとしても、特段の事情がない限り、何らかの考慮が働いて然るべきだと思われるかもしれません。
しかし、上記原審のように、特有財産であることの厳格な立証を求め、立証ができなかった場合には一切の考慮もないという扱いがなされた事案を何度もみております。
このように、財産分与については、裁判所独特の考え方や進め方がありますので、財産分与において争いになりそうな不安を抱えていらっしゃる方は、弁護士に相談されることをお勧めします。
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