弁護士 田中 優征
離婚を考えている方の中には、「もう気持ちが離れてしまったから」「別居期間も長いし、そろそろ離婚できるのでは」と感じている方も多いと思います。
しかし、 裁判所が離婚を認めるかどうかは、単に別居期間の長さだけで決まるわけではありません。
とくに、一方的に別居し、自分勝手・不誠実な行動を取った場合には、 離婚請求が認められないこともあります。
今回は、実際の裁判例を紹介しながら、離婚を求める際に注意すべきポイントについて解説します。
民法770条1項5号は、離婚の原因として「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」と規定しています。
この重大な事由とは、婚姻生活が破綻し、修復が著しく困難な状態をいうものと考えられています。
そして、 裁判所は、3年間から5年間程度の別居が継続している場合、婚姻関係が破綻しているものと判断する傾向にあると言われています。
しかし、配偶者の一方が婚姻関係の破綻の原因を作り出した場合、その配偶者(有責配偶者)からの離婚請求は強い制限を受けます。
不貞行為などの明白な有責行為があれば、有責配偶者からの離婚請求が制限されることは理解しやすいと思いますが、 不貞行為などはないにも関わらず、一般的に離婚が認められるために必要といわれている別居期間が経過しているにもかかわらず、離婚が認められない可能性もあります。
本稿では、このような判断をした実際の裁判例を紹介し、離婚や別居を進めていく際に注意すべき点を解説します。
本件は、夫である原告が、妻である被告に対して離婚を求めた裁判です。夫は、一方的に別居を開始し、もともと支払っていた婚姻費用の支払いを離婚調停が不成立となった後に停止し、さらに、原告名義の不動産に居住していた被告に対して賃料を請求する裁判をしていた(賃料請求は認められませんでした。)という事案でした。
裁判所は、別居期間が4年6か月に及んでいることから、婚姻関係は破綻していると認定したうえで、以下の通り判示しました。
「原告は…一方的に被告並びに長男及び二男との別居に踏み切った後、…被告を相手方とする夫婦関係調整(離婚)調停を東京家庭裁判所に申し立て、これが…不成立により終了すると、それまでしていた被告に対する月額46万円の送金を停止して…本件口頭弁論終結時に至るまで、被告に対する婚姻費用分担金の支払を一切しなかったばかりか…被告に対し、被告並びに長男及び二男が居住する住居を賃貸したとする独自の見解を主張して、未払賃料の支払などを求める訴えを東京地方裁判所に提起するに及んでいるのであって、原告のこうした振る舞いは、正に兵糧攻めによって被告に原告の一方的な離婚の要求を受け入れさせようとするものであったということができる。」
「そして、以上のような事情に鑑みると、原告と被告との別居期間が4年6か月を超え、その婚姻関係が破綻するに至った原因は、一方的に被告との離婚を実現させようとした原告が、被告との別居に踏み切るにとどまらず、被告に対して婚姻費用の分担義務を負っていることを顧みることなく、兵糧攻めともいうべき身勝手な振る舞いを続け、婚姻関係の修復を困難たらしめたことにあったと認めるのが相当である。したがって、原告と被告との婚姻関係の破綻について主として責任があるのは、原告であるというべきである。」
この裁判例は、
経済的な圧力(判決文では兵糧攻めと比喩的に表現されています)を背景に離婚を迫った夫による離婚請求を否定したものです。
本件では、一方的に別居を開始し、それまで支払っていた婚姻費用を、離婚の調停が不成立になった途端に支払いを停止したことや、家族間であり、賃貸借関係が成立していないにもかかわらず、そのような主張をして訴訟の提起まで行っていることが否定的な評価を受けたものと考えられます。
本件も、夫である原告が、妻である被告に対して離婚を求めた裁判です。夫は、単身赴任中に別居を開始し、被告は、高齢である原告の父親と子2名と一緒に暮らしており、原告の父親や被告は原告に何度も連絡を取ろうとしていましたが、原告は直接の連絡を全て拒否していました。
裁判所は、「婚姻により配偶者の一方が収入のない家事専業者となる場合には…離婚が認められ…ると,経済的苦境に陥ることが多い。」としたうえで、
「離婚を求める配偶者は,まず,話し合いその他の方法により婚姻関係を維持するように努力すべきであるが,家事専業者側が離婚に反対し,かつ,家事専業者側に婚姻の破綻についての有責事由がない場合には,離婚を求める配偶者にはこのような努力がより一層強く求められている…。また,離婚を求める配偶者は,離婚係争中も,家事専業者側や子を精神的苦痛に追いやったり,経済的リスクの中に放り出したりしないように配慮していくべきである。」
そして、
「第1審原告は,さしたる離婚の原因となるべき事実もないのに…単身赴任中に何の前触れもなく突然電話で離婚の話を切り出し,その後は第1審被告との連絡・接触を極力避け,婚姻関係についてのまともな話し合いを一度もしていない。…離婚請求者側が婚姻関係維持の努力や別居中の家事専業者側への配慮を怠るという本件のような場合においては,別居期間が長期化したとしても,ただちに婚姻を継続し難い重大な事由があると判断することは困難である…」
と判示して、 婚姻関係の破綻を否定しました。
さらに、仮に7年間の別居によって婚姻関係の破綻が認められるとしても、離婚請求が信義則の観点から認められるか検討する必要があるとしたうえで、
「『別居が一定期間継続した後に行われる離婚の訴訟では(中略)日本の法律のもとでは離婚が認められてしまう』という極端な破綻主義的見解は,当裁判所の採用するところではない。」
とし、
「本件についてこれをみるのに,婚姻を継続し難い重大な事由…の発生原因は,専ら第1審原告の側にあることは明らかである。…本件離婚請求を認容して第1審原告を婚姻費用分担義務から解放することは正義に反するものであり,第1審原告の離婚請求は信義誠実の原則に反するものとして許されない。」
本件では、別居期間は7年間とかなり長期間に達していましたが、 婚姻関係の破綻は認められませんでした。その理由として、離婚を希望するさしたる理由がないこと、一方的に妻や妻と生活する自らの父・子らとの接触を避け、話し合いをしようとしなかったこと、妻や子らに対する配慮を怠っていたことが挙げられています。
そして、 離婚による妻や子への悪影響を考慮すると、仮に婚姻関係の破綻が認められるとしても、離婚の請求は認められないとも判断されています。
このような裁判例をみますと、特段の理由もなく一方的に別居を開始し、配偶者に対して不誠実な対応を継続したり、経済的な圧力をかけたりして、別居期間が経過した場合には、 離婚が認められない可能性があるといえます。
婚姻関係が破綻しているかどうかは、単に別居の長さなどで機械的に決まるものではありません。これまでの経緯や総合の主張などをもとに、裁判官が総合的に判断するもので、いわば価値判断の要素を含むものです。
「別居の期間さえ経過すれば、必ず離婚が認められる」という態度では、裁判官の心証を悪化させ、不利な結果を招く可能性があることに注意が必要です。
離婚を見据えた別居を開始する場合には、配偶者や同居していた家族の生活に配慮し、別居中も生活費や婚姻費用を適切に負担すること、離婚を決意するに至る前後に、家族で話し合いの機会を設けること等も検討した方がよいと考えられます。
本稿では、 一方的に別居を開始した場合には、別居期間が婚姻関係の破綻を認めるに十分な期間経過していたとしても、離婚が認められない場合があることについて述べました。
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