弁護士 劉可心
令和6年5月民法改正で、共同親権制度の導入が決まり話題となりましたが、その陰で養育費制度についても重要な法改正がされています。
それは、①養育費債権の先取特権化と②法定養育費制度の導入についてです。
②については、以下のページに解説がありますのでご参照ください。
https://bengoshi-okazaki.com/blog/_rikon/12962/
今回は、①について解説します。
先取特権(さきどりとっけん)とは、法定担保物権の一種であり、法律で定められている債権について、債務者の全財産から、他の一般債権者よりも優先的に弁済を受けられる、という権利です。この権利には2つの意味があります。
たとえば、Aさんの財産が100万円しかなく、BさんとCさんからそれぞれ100万円ずつ借金をしている状況で破産した、という場合、BさんとCさんは債権に応じた割合で配当を受けることになるので、50万円ずつ配当を受けます。
他方で、Bさんが100万の債権について先取特権を有する場合は、Cさんに優先し、100万全額について弁済を受けることができます。
もう一つは、Aさんの持っている財産を強制的に換価し、そこから弁済を受けられる権利であるということです。すなわち、Aさんが任意に債務を履行しない場合に、先取特権を有するBさんは、Aさんの許可や同意を必要とすることなく、Aさんの所有する不動産を強制競売にかけて、売却代金から自分の債権の回収に充てることができるのです。
このように、先取特権を持つ債権者は、一般の債権者と比べて有利な立場にあります。
今まで民法上、一般先取特権として認められていたのは、⑴共益費用(債務者の財産を保全させるのにかかった費用)⑵雇用関係の債権(給料など)⑶葬式費用⑷日用品の供給(光熱費など)の4種類でした。
法改正により、ここに、新たに養育費も加わります。ただし、養育費全額について先取特権が認められる訳ではなく、「子の監護に要する費用として相当な額」で、具体的にいくらかは、法務省令で定めることになります(改正民法308条の2)。たとえば義務者の収入が非常に多く、算定表によれば月50万円の養育費が支払われるべき場合でも、50万円満額について先取特権がある訳ではなく、50万円のうち、一部(たとえば10万円)についてのみ先取特権が存在し、残額は先取特権のない一般の金銭債権である、ということです。
ちなみに、先取特権同士の優先順位も⑴~⑷の順となりますが、養育費は⑵と⑶の間、すなわち第3順位の一般先取特権となります。この法改正は令和8年4月1日までに施行される予定です。
従来であれば、養育費が任意に支払われない場合には、「債務名義」を取得したうえで強制執行に及ぶ必要がありました。しかし、この「債務名義」の取得については、かなりの時間と手間を要する厄介な問題でした。
すなわち、「債務名義」となる文書には、強制執行認諾文言付きの公正証書での合意書や、調停調書や審判書などがありますが、単なる合意書では債務名義にはなりません。しかし、公正証書の作成には費用がかかりますし、調停調書や審判書等は裁判所での調停成立や審判を待たなければならないので、どうしても時間がかかってしまっていました。審判前の保全処分という手続を取ることもありますが、本案認容の蓋然性、保全処分の必要性、緊急性等が必要となり、疎明資料も提出しなければならず、それなりに手間な上に、それでも確実に支払われるものとは限りません。
これに対し、先取特権であれば、「担保権の存在を証する文書」(民事執行法181条1項4号、同法193条1項)を提出すれば強制執行ができます。つまり、公正証書や調停調書等がなくとも、当事者や代理人弁護士が作成した合意書でも強制執行をすることが可能です。ただし、たとえば単に「相当額の養育費を支払う」としか記載のないものでは債権の特定性としては不十分で、他にも債権を特定するために必要な記載事項はありますので、少なくとも合意書の作成は専門家に依頼した方がいいでしょう。
今回の法改正により養育費が先取特権となり、法定養育費制度と相まって、最低限の生活費分は今までよりも支払われやすくなった印象はあります。ただし、適正な養育費額の算定方法や、決定に至るまでに踏むべき手続は従来のまま変わりません。離婚に際し養育費についてお悩みの方は、ぜひ専門家に相談することをお勧めします。
更新日:2025.07.28
Aさん/40代女性
面会交流に関して間接的な面会交流で合意
職業
パート・無職
婚姻期間
10年
(別居期間2年)
離婚の種類
調停離婚
子ども
あり
Aさんは、夫と離婚しましたが、その際に面会交流についての取り決めをしていませんでした。夫からAさんに対して面会交流の打診がありましたが、子供が面会交流を嫌がったことから面会交流を実施することができませんでした。そうしているうちに夫が家庭裁判所に面会交流調停を申し立てたことから、Aさんは当事務所に相談にいらっしゃいました。
当事務所では、面会交流調停を申し立てられた以上は、裁判所で対応するしかないため、Aさんとともに調停に臨み、子供が面会交流を嫌がっていることを説明しました。
また、間接的な面会交流を実施することを提案するなど、できる限り協力をしていきました。
その後、裁判所で試行的面会交流が行われ、子供と家庭裁判所調査官が面談して、調査官が直接、子供の意向を聞きました。
その際に子供から調査官に、面会交流をしたくないという意向が強く示されたことから、最終的には元夫が子供達にプレゼントや手紙を送ることを合意し、調停は成立しました。
面会交流の場合、子供と一緒に暮らしていない親の方は、子供の状況が分からないことが多くあります。
このような場合に、子供の状況が分からず、話がこじれることも良く聞く話です。
その結果、裁判所に面会交流調停が申立されることもありますが、裁判所で調査官調査を行った結果、解決につながることもあります。
本件で面会交流の調停が成立したことへのポイントは、
・Aさんが色々な手続きに協力をしてくれた
・子供の意思が明確で、意見をきちんと言うことができた
・調査官調査の結果を双方が尊重することができた
という点が挙げられます。
面会交流では、離婚した元夫婦や紛争中の夫婦ということもあり、お互いに相手方に対して良い感情をもっていないことが多いと思われます。
その中でも、子供のことを考えて協力をすることができるか否かが重要になってくるでしょう。
一般的に、子と別居親との適切な形での面会交流は子の利益に資するものといえるところ、面会交流を実施すべきか否かについては、これまでの別居親と子との関係や交流の状況、子の心身の状況、子の意向及び心情、同居親及び別居親との関係や面会交流についての考え方、面会交流の実施が同居親に与える影響その他子をめぐる一切の事情について、子の利益を最も優先して考慮して判断すべきであり、その結果、面会交流を実施することにより子の利益に反する事情がある場合には、面会交流を禁止ないし一定期間禁止することもやむを得ないというべきとした例
離婚でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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弁護士 浅野由花子
離婚時に取り決める養育費。
夫の不貞が原因で離婚を考えているところ、不貞相手との間に隠し子がいることが判明した、あるいは離婚後に元夫がその子を認知したといったケースは、決して珍しくありません。
このような場合、「私の子への養育費は減ってしまうのか?」という疑問を持たれる方も多いでしょう。
本記事では、夫の隠し子の有無や認知の状況によって、養育費の扱いがどう変わるのかを解説します。
養育費は、夫婦の収入、子の人数、年齢などを基に「養育費算定表」(https://www.courts.go.jp/tokyo-f/saiban/tetuzuki/youikuhi_santei_hyou/index.html)に基づき決定されるのが一般的です。
ここで重要なのは、「扶養すべき子の人数」が金額に大きな影響を与えるという点です。
つまり、夫に他にも扶養義務のある子どもがいれば、1人の子に割り当てられる金額は減る傾向にあります。
以下では、具体的なケースに分けてご説明します。
まず、婚姻中に生まれた子は戸籍上「嫡出子」とされ、特別な手続きを経ずとも、法的に親子関係が認められます。
しかし、隠し子については、夫は不貞相手と婚姻関係にないため「非嫡出子」となり、認知されない限り、法的な親子関係が認められません。
仮に夫に認知済みの隠し子がいた場合、隠し子と夫は法律上の親子関係を有することになります。そして、扶養義務は子の親であることから生じる義務であるため、妻の子と同様に隠し子も夫の扶養義務の対象となります。
この場合、夫の「扶養すべき子の数」が増えたものとして、養育費の算定において考慮されることとなります。
算定についてですが、一般的には、夫が隠し子に養育費を払っているか否か、その具体的な金額に関係なく、夫の支払うべき養育費が算定されることとなります。夫はそれぞれの子に対し適正な養育費を支払う法的義務があるからです。
ただし、これには様々な考え方があるほか、不貞相手の年収、夫の年収等の個別事情も考慮されますため、弁護士に相談されることをおすすめします。
このケースでは、離婚後に「元夫に新たな扶養義務が発生した」ことになります。そして、養育費算定表において「子1人」のケースから「子2人」に変更されると、養育費を支払う非監護親の生活費の余力が減少することとなります。
そのため、離婚後に事情変更が生じたとして、現在支払っている養育費の減額を元夫が申し出てくることが考えられます。
しかし、養育費は一度当事者間で取り決めをした以上、勝手に変更することはできません。
養育費の金額を変更するためには、
・当事者間で再度養育費の金額を合意するか、
・養育費減額調停等を申立て、改めて養育費の金額を取り決める必要があります。
そして、実際にいくら減額されるかは、前述のとおり、不貞相手の年収、元夫の年収、扶養状況等の個別事情が関係しますため、弁護士に相談されることをおすすめします。
離婚時に夫が隠し子を認知していなかった場合、法的な親子関係は存在せず、隠し子は夫の扶養すべき子として扱われません。したがって、離婚時における養育費の算定に影響を与えることはありません。
ただし、将来的に夫(元夫)がその子を認知する可能性が存在することに留意しなければなりません。仮に認知すれば、前述のとおり、養育費の減額を申し立ててくることが考えられます。
不貞相手に隠し子がいる場合のおおまかな養育費については、「養育費算定表」(https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html)を参考に把握することができます。
仮に、夫の年収が1200万円、妻の年収が300万円、妻の子が1人(10歳)、隠し子が1人(5歳)いたと仮定します。
この場合には、「表3:養育費・子2人表(0~14歳)」(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file5/youiku-3.pdf)を参照すると、養育費は16~18万円の範囲に収まると考えられます。
そして、子供の数である2で割ると、8~9万円となり、妻の子が受け取る大体の養育費が把握できます。
仮に、隠し子がいなかった場合、「表1:養育費・子1人表(0~14歳)」(https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file5/youiku-1.pdf)を参照すると、妻の子が受け取る養育費は大体12~14万となります。
このように、隠し子がいる場合といない場合とで、受け取る養育費に差が生じる結果となります。
※なお、これは不貞相手の年収を考慮しない場合における大体の目安です。実際には、不貞相手の年収を反映して計算するため、厳密な計算結果とは異なりますことをご承知おきください。
このように、隠し子の存在も養育費の算定にあたり考慮される事情となります。
算定表はあくまで目安に過ぎず、養育費の計算については、ケースによって異なりますため、養育費の取り決めや見直しにお悩みの際は、個別の事情に応じた適切な対応が必要となります。ぜひ一度ご相談ください。
更新日:2025.03.05
Aさん/40代女性
解決内容 親権を確保して早期に離婚だけ成立
職業
パート・無職
婚姻期間
10年
(別居期間1年)
離婚の種類
調停離婚
子ども
あり
Aさんは、いきなり夫が別居し、その後、夫が依頼した弁護士から受任通知が届きましたが、何を求められているのか良く分からない状態でした。そのため、対応が分からず、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
当事務所では、依頼を受けた後、代理人を介して夫と連絡をとったところ、親権者と財産分与が主な問題であることが分かりました。
親権者で争いになった場合には、話し合いでの解決が困難であることから、速やかに離婚調停を申し立て、
あわせて婚姻費用分担調停を申し立てしました。
離婚調停の中で調査官調査を行い、子供の状況等を調査してもらったところ、別居後も引き続きAさんと同居している Aさんの方が親権者に適格であるという話しになり、最終的には夫もAさんが親権者となることに同意しました。
財産分与の問題が残っていましたが、子供が新学期を迎えるということもあり、財産分与の問題は後で解決するとして、 先に離婚と親権者のみで調停を成立させることができました。
離婚事件の場合、多くは離婚と一緒に親権者や養育費、財産分与といった問題を解決しますが、離婚と同時に解決する必要があるのは親権者のみで、財産分与等の問題は離婚後に別途話し合うことも可能です。
そのため、早期に離婚を進める必要があり、当事者間の合意があれば、離婚だけ先に成立させることも可能です。
本件で早期に離婚だけ成立したことへのポイントは、
・親権者について話し合いで解決を図ることができた
・離婚だけ先に解決する必要性があった
・夫側に婚姻費用の問題があり、離婚を先行させることへのメリットがあった
という点が挙げられます。
早期に離婚だけ進める場合には、当事者双方の意向が合致する必要がありますが、意向が合致するにはお互いのニーズ・メリットがかみ合う必要があります。
本件では、離婚を早期に進めることに対して、お互いのニーズ・メリットがかみ合った事案でしたので、離婚のみ先に進めることができました。
離婚でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
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念願のマイホームを購入したあとに、残念ながら夫婦関係が悪くなり、離婚を考えるようになった場合、マイホームをどう扱うのか、残りの住宅ローンはどうなるのか、お尋ねが多い問題です。
夫婦が婚姻期間中に築いた共有財産を離婚するときには、公平に分配する(「財産分与」と言います)ことになります。
これらの情報を集めた結果より選択肢を考えます。
もっとも、財産分与は、マイホームだけではなくその他の財産も含めて全体としてどのように分けるのかが問題となりますので、マイホーム以外の財産の整理も必要となります。
それら財産を整理したうえで、
マイホーム購入後に離婚する場合は、さまざまな選択肢が考えられます。一生に一度の大きな買い物で資産額も大きいので、しっかり話し合いましょう。あなたにとって、どの選択肢が良いか、よく考えましょう。
ご参考までにこちらもご覧いただけますと幸いでございます。
https://www.nagoyasogo-rikon.com/rikon-loan/
更新日:2025.03.05
Aさん/50代女性
離婚成立、財産分与、養育費・婚姻費用の取得
職業
会社員
婚姻期間
25年
(別居期間3年)
離婚の種類
調停離婚
子ども
あり
Aさんは、およそ2年前から夫と別居をしていましたが、夫から離婚の申し出を受けました。しかし、正式に財産分与等を取り決める必要があると考え、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
Aさんの希望としては、離婚をするのであれば、財産分与や、長女の養育費について正式に取り決めをしたうえでなければ難しいというものでした。そこで、当事務所が代理をして、離婚の条件についての協議を申し入れしましたが、協議段階では話し合いが難航しました。
そこで、調停の申立てをし、調停において離婚条件・生活費について話し合うことになりました。なお、婚姻費用については、請求した時から支払いが認められるという裁判所の考えに基づき、交渉段階で内容証明郵便を送付しておきました。
調停においては、財産分与の基準時について争いがありましたが、最終的には、夫側からの提案を承諾し、財産分与として一定額の支払いを受けて離婚を成立させることとしました。
また、養育費については、双方の収入を基準に決定しました。
財産分与の基準時については、婚姻生活中に築いた財産を清算するという財産分与の制度から、夫婦の協力関係が解消されたときとすることが一般的です。その多くが別居を開始した時になるのですが、本件は別居に至る経緯が少し特殊であったため、この点が争いになりました。
本件における解決のポイントは、財産分与額の見通しをつけておくことにありました。
調停においては、財産分与等の金額の提示がなされることがあります。その際に、その金額が財産分与の額として適正かどうか分かっていなければ、提示を受け入れるかどうかを判断することができません。結果として、不十分な額しか受け取れなかったという事態も想定されるところです。
そのうえで、減額を受け入れる等、柔軟な解決を模索することが、調停を成立させるために必要になってきます。
そうしますと、財産分与に限らず、可能な限り結果の見通しを付けておくということが重要になってくると考えられます。
離婚でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。
相談の流れはこちら
離婚したくてもこのような場合では話し合いができず、離婚を進めることができません。
離婚を進めようとお考えならば、あなたが弁護士をつけることで、離婚したいという真剣な思いを相手に伝えることができるのではないでしょうか。
一人で調停に臨んでも、調停委員に伝えたいことが伝わらないと希望する結果になりません。 自分の思いを弁護士に伝えたら、弁護士があなたのために尽力して交渉します。 ましてや相手に弁護士がついた場合、自分ひとりで弁護士に対応することは大変な労力が必要です。
弁護士に依頼すれば、それなりの費用がかかります。
しかし
離婚を考え始めたら、弁護士に相談しましょう。
相談時までに、以下の点について抑えておくことをお勧めします。
もっとも相談時間には限りがあります。
弊所では、初回相談時には、相談票というものをご用意しております。
相談票にご記入いただくことで、事前に弁護士が相談内容を把握し、充実したご相談をさせていただくことができるようにしております。
弁護士への離婚相談はこちらまで。
https://www.nagoyasogo-rikon.com/flow/
このような内容のご相談をご希望される方がいらっしゃいます。
離婚するときに定める条件はご夫婦ごとに異なるとは思いますが、一般的には、
が挙げられます。
「親権者」を記入しないと離婚届が受理されません。
「養育費」は裁判所のHPに掲載されている「養育費算定表」という表を参考にすると養育費の目安の金額がわかります。
「面会交流」の方法や頻度を決めておかないと、会わせてもらえなくなる可能性が出てきます。「財産分与」の請求・「年金分割」の請求には期限があるため、時間の経過により請求できなくなる可能性があります。
「慰謝料」は、相手方配偶者に婚姻関係を破綻させた原因がある場合に請求することができます。また、「慰謝料」の請求にも時効があります。
とにかく早く離婚したいからといって、
何も決めないで離婚する
相手の言いなりの条件で離婚する
と、変更することが困難になり、あとで後悔することになります。
譲れない条件について順位をつけて決めていくことをご提案いたします。
こちらもご参照ください。
https://www.nagoyasogo-rikon.com/three-problem-eight-point/
不貞行為をした二人は、被害者である配偶者に対し、共同不法行為者として慰謝料全額を支払う義務があります。
例えば、慰謝料が300万円のとき、被害者である配偶者は、不貞行為をした自分の配偶者もしくは不貞相手のどちらか片方に300万円全額を請求することもできますし、それぞれに150万円ずつ請求することもできます。そして、請求をされた者は、請求額全額を支払う義務があります。
一方、不貞行為をしたうちの一人が、他の共同不法行為者である不貞相手との責任割合に従って定められるべき自己の負担部分を超えて被害者である配偶者に損害を賠償したときは、他方の不貞相手の負担すべき部分について求償することができます。 これを求償権といいます。
それでは、不貞行為をした二人の責任割合は、どのように決まるのでしょうか。
まず、不貞配偶者と不貞相手との間の合意で、自由に負担割合を決めることができます。
負担割合を合意で決めることができない場合には、訴訟で裁判所に負担割合を決めてもらうことになります。
裁判所が負担割合を決める際、一般的に、
①もっとも重視されるのは、不貞行為についての積極性や主体性です。
②不貞配偶者と独身の不貞相手とでは、不貞配偶者の責任の方が大きいとされる傾向にあります。
③妻と離婚する予定であるなど、不貞相手を欺罔して不貞関係をもった不貞配偶者の責任は、特に重くなる傾向にあります。
以下、求償割合について判断した裁判例をご紹介します。
東京地方裁判所 令和3年2月25日
慰謝料額130万円
不貞配偶者 対 不貞相手
7 対 3
控訴人 夫(不貞配偶者)(昭和39年生まれ・既婚者・看護師)
被控訴人 女性(控訴人の不貞相手)(昭和51年生まれ・独身・看護師)
平成29年7月から9月にかけて複数回の不貞行為
平成30年11月1日 控訴人の妻と被控訴人との間で慰謝料50万円を支払う内容の和解が成立し、被控訴人は控訴人の妻に対し50万円を支払った。
平成30年12月1日 控訴人は、妻に対し、慰謝料として80万円を支払う約束をし、2回に分けて全額を支払った。
本件では、不貞行為をした控訴人と被控訴人とが、控訴人の妻に対し、総額130万円の慰謝料を支払いました。そして、130万円のうち50万円を支払った被控訴人が、自分の負担割合はもっと少ないんだと主張して、控訴人に求償をしました。
なお、本件では、控訴人が、離婚する意思がないにも関わらず妻と離婚する意思があるかのように装ったとして、被控訴人の信頼及び貞操権を侵害したことを理由に、控訴人から被控訴人に対し、慰謝料として70万円を支払うよう命じられています(軽率に信じた被控訴人の過失も認定)。
前記認定事実によれば、控訴人は、平成29年7月頃、被控訴人に対し、結婚したい旨のLINEメッセージを送信するなどして、積極的に被控訴人との不貞関係を発展させたことが認められ、これによれば控訴人の妻に対して負う損害賠償債務の割合は、控訴人がその過半を負うべきものといわざるを得ない。
他方、被控訴人は、控訴人が婚姻していることを知りながら、また、婚姻関係が破たんしている等の控訴人の言について確たる根拠を伴うものであるか否か確認することなくこれを信じ、不貞行為に及んだことが認められるのであるから、控訴人とその妻との間の婚姻共同生活の平和の侵害に対する被控訴人の寄与の程度も軽視すべきではない。その他諸般の事情を考慮すると、控訴人と被控訴人が控訴人の妻に対して負う損害賠償債務の負担割合としては、控訴人7割、被控訴人3割とするのが相当である。
東京地方裁判所 令和3年2月5日
慰謝料額140万円
不貞配偶者 対 不貞相手(既婚者)
1 対 1
原告 Aの妻
被告 Aの不貞相手方女性・夫Bの妻
A 原告の夫(AとBの子供のサッカーのコーチ)
B 被告の夫
原告・A夫婦
平成17年4月3日婚姻・子ども4人
被告・B夫婦
平成17年9月26日婚姻・子ども3人
平成30年4月13日頃 不貞行為2回
平成30年7月21日 被告とAとが箱根の温泉に宿泊し不貞行為
平成30年8月6日 原告がAと別居
平成30年9月3日、AがBに対し、全慰謝料として250万円を支払った
本件不貞行為は、平成30年4月13日及びその他の日(ただし、同年7月20日までの日である。)に池袋のラブホテルで2回並びに同年7月21日から同月22日にかけてのCでの宿泊の際に1回であると認められるが、被告及びAが本件不貞行為に及ぶ際に他方当事者から脅されたなど、任意の選択を妨げられたといった事情もうかがわれないから、本件不貞行為は、被告とAの任意の意思と判断によるものというべきである。そうすると、本件不貞行為に係る被告とAの責任割合は、50パーセント対50パーセントと認めるのが相当である。
なお、本件では、
原告に対する被告とBの慰謝料 140万円
Bに対するAと被告の慰謝料 100万円
と異なる金額が認定されました。
金額の違いは、原告夫婦が別居しているのに対し、被告夫婦は、婚姻関係を継続していることを理由としています。
この点、Aは、本件訴訟に先立ちBに対し慰謝料250万円を支払っていますが、裁判所は、本来の慰謝料額は100万円であり、差額の150万円は、Aが早期解決のために支払ったものであり、求償の対象となるのは100万円のみであるとしています(被告の負担分は50%の50万円)。東京地方裁判所令和3年8月30日判決
慰謝料額 135万円
不貞配偶者 対 不貞相手
8.5 対 1.5
原告 女性 19歳独身(不貞当時未成年者)
被告 既婚の夫 38歳 婚姻期間約1年3カ月 子供二人
原告と被告は、新年会で接近し、被告は原告に対し、既婚者であることを隠して、その日のうちに性交渉をもった。
その2、3日後に、被告は、原告に対し、交際を持ち掛け、既婚であることを告げた。
原告と被告は、平成31年1月から平成31年10月まで性交渉を含む交際
交際中、被告は妻との離婚をほのめかし、原告に離婚届を見せた
平成31年5月、被告の妻に不貞が発覚
令和2年1月 原告から被告の妻に対し135万円の慰謝料を支払った。
原告は、被告に対し、別れを告げ、職場も辞めた。
原告は当初未成年であり、性交渉を含む交際を誘起した責任は主として被告にあり、原告の側におけるその動機に内在する不法の程度に比し、被告の側における違法性は、著しく大きいものと評価することができることからすれば、その責任割合は原告1割5分、被告8割5分とするのが相当である。
不貞の慰謝料では、被害者である配偶者から、不貞行為をした両者に慰謝料請求がなされ、ともに慰謝料を支払っている場合もあり、求償関係が複雑になることがあります。複雑になりそうな事案の場合は、合意をする前に、弁護士に相談しておくことをお勧めします。
財産分与の対象は、基準時(別居日などの夫婦の経済的協力関係がなくなった日)における共有財産です。
そのため、相続や親からの贈与金、婚姻前から保有していた預貯金などの特有財産については、財産分与の対象外となります。
しかし、実際には、長年の婚姻生活のなかで、共有財産と特有財産とが渾然一体となっていることも多く、このような場合、財産分与の対象財産の範囲が問題となってきます。
この点、夫婦のどちらに属するのか分からない財産については、共有財産であると推定されますので、(民法762条2項)、特有財産であると主張する側がそれを立証しなければなりません。
そして、実務では、単に相続で取得したことや婚姻前に預貯金を保有していたことだけを示しても、特有財産だとは認めてもらうことはできません。基準時に有する財産のなかに、特有財産が残存していることの立証までも求められます。
特に、特有財産が普通預金口座に入金されたあと、口座において生活費のために給与などが出入金を繰り返したなどの場合には、お金には色がついていませんので、基準時の財産のなかに特有財産が残存していることを立証するのは、非常に難しいです。
では、特有財産であることの明確な立証ができなかった場合、それでも何らかの考慮が働くことがあるのでしょうか。
この点について、原審と抗告審とで、判断が分かれた裁判例がありますのでご紹介します。
下記裁判例は、夫が、別居時の夫名義の預貯金残高のうち、2883万7500円については、父の相続で取得した特有財産であるから財産分与の対象外だと主張したことから、かかる主張が認められるのかが問題となりました。
原審:東京家庭裁判所 令和3年11月25日審判
抗告審:東京高等裁判所 令和4年3月25日決定
抗告人 夫 婚姻後、大学を卒業し大学院に通い、平成10年、税理士資格を取得
その後、税理士事務所を経営するとともに有限会社を設立
被抗告人 妻 専業主婦として3人の子を育てた
昭和60年12月 婚姻
平成20年 夫が父の相続で2882万7500円を取得
平成27年8月 夫が自宅を出るかたちで別居
令和元年8月 裁判離婚
原審も抗告審も、夫が父から2883万7500円の預金を相続したことを前提に、2つの定期預金(原審と抗告審とで認定額は多少異なりますが、約888万円)については、特有性を認めましたが、その余の口座については、特有性を否定しました。
原審も抗告審も、預金の流れを分析し、相続で取得した時点から別居時までの預金の流れを追うことができないものについては、基準時残高に特有財産が残存していたことを裏付ける資料がないとして特有財産性を否定しています。
そのうえで、原審と抗告審とでは、そのあとの判断がわかれました。
原審では、預金口座の特有財産性を否定したことで、それ以上特有財産について何らの考慮もしませんでした。
これに対し、抗告審は、次のように述べて、一部の特有財産性を考慮した財産分与を決定しました。
「もっとも、抗告人の相続した2882万7500円の預金は高額であり、相手方には収入がなく、一方で抗告人の基準日までの収入に照らして、同相続預金の取得は、後記(3)の番号2-6の預金において考慮する部分を除き、資料上は特定できないものの、基準日における抗告人名義の財産を増加させ、あるいはその費消を免れさせたものと推認できるから、それを本件における財産分与において、合理的な範囲で考慮するのが相当であるので、後記認定のとおり、上記相続預金の取得の事実を財産分与における一切の事情として考慮することとする。」
(略)
「抗告人は、平成20年■月■■日の父死亡による相続により約2883万円もの多額の預金を相続しており、上記3(3)の番号2-6の預金において考慮した約888万円の預金を控除しても、約2000万円の預金を取得していたものであるから、これらの預金により、基準時財産が増加し、あるいは支出を免れたことが推認されるところ、これらの事情のほか、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、抗告人から相手方に対し、財産分与として5000万円を支払うものとするのが相当である。」と改める。
一般的な感覚からすれば、基準時から7年前に約2883万円もの預金を相続したのであれば、仮に特有財産の立証ができなかったとしても、特段の事情がない限り、何らかの考慮が働いて然るべきだと思われるかもしれません。
しかし、上記原審のように、特有財産であることの厳格な立証を求め、立証ができなかった場合には一切の考慮もないという扱いがなされた事案を何度もみております。
このように、財産分与については、裁判所独特の考え方や進め方がありますので、財産分与において争いになりそうな不安を抱えていらっしゃる方は、弁護士に相談されることをお勧めします。
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