弁護士 田中 優征
不貞行為(不倫)を理由として慰謝料を請求する場合、もっとも重要になるのは証拠であるといえると思います。
前提として、不貞行為とは、配偶者以外の異性と自由意思に基づいて性的な関係を持つことを指します。
不貞行為を立証するために、性行為そのものの証拠(動画や写真など)があるに越したことはありませんが、そのような直接的な証拠が得られるケースは珍しいです。
そこで、実務上多く用いられるのは、ラブホテルなどの宿泊施設に出入りする姿や、相手方の自宅等に出入りしたことを示す探偵の調査報告書などです。
通常、既婚者が配偶者以外の人物とラブホテルに滞在したり、同室に宿泊したりした事実が認められれば、特段の事情がない限り、性交渉があったと強く推認されます。
しかし、場合によっては、この推認が覆される場合もあります。
本稿では、男女が多数回の旅行、宿泊、さらにはラブホテルへの滞在という事実を認めながらも、裁判所が「不貞行為があったとは認定できない」と判断した、やや特殊な裁判例を紹介します。
福岡地裁 令和2年12月23日判決
本件は、元妻である原告が、元夫(警察官・以下「Z」)と被告(女性・看護師)が原告とZが婚姻関係にあることを知りながら不貞行為に及んだと主張して、被告に対し、慰謝料500万円の支払いを求めた事案です。
Zは、自らをアダルト・チルドレンかつ共依存症であると自覚し、心理学や精神世界の理論等の勉強に傾倒していました。
一方の被告も、自身の家族の問題から、看護師としての患者への関わり方に悩んでいたところ、あるミーティングでZと知り合い、それ以降一緒にアダルト・チルドレンの自助グループ等に参加するようになりました。
被告がZに看護師としての患者への援助の仕方等について相談して、Zがこれに応じるようになり、会議室を借りるなどして、本格的に学習に取り組むようになりました。
両者のこの関係性を踏まえ、被告は、Zのことを「師匠」と呼んでいました。
また、被告とZは、「性別を超えた究極の仲良しさんを目指す」「決して男女の関係にならないようお互いが気をつける」といった内容を含む契約書を作成していました。
被告とZは、東京、石垣島、北海道等に旅行に出かけて宿泊し、福岡市内のラブホテルへに相当回数宿泊していました。
原告側の探偵による調査では、ラブホテルを出る際に手をつないでいた場面も撮影されていました。
被告は、これら宿泊の事実を認めつつも、旅行については学習に関する講座やミーティングに参加するため、ラブホテルの利用については教材であるDVD視聴、学習に関する書物の読合せ、
ロールプレーによる支援技法やカウンセリングの学習をするのに適当で利用料金が低額な場所がほかになかったからであるとして、不貞行為を否認しました。
裁判所は、
成人の男女である被告とZは、多数回、一緒に旅行して同室に宿泊し、しかも、ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することも少なくなかった。
また、…被告は、Zに対し、『やっぱり悪いことは出来ないです。不倫でしかないと思いました。』 などのメールを送り…これらの事実に照らせば、被告とZが性行為に及んだ事実が極めて強く推認される。
と、表面的には不貞行為が推認されるとしながらも、
被告とZのメールのやり取りは、…ときに、妄想的、夢想的あるいは宗教的であったり、比喩的あるいは誇張的であったりし、 また、言葉遊びの要素や、自己陶酔的あるいは自意識過剰な部分も見受けられることから、その内容を正確に理解することは必ずしも容易ではない。
そこで、上記のような被告とZの特殊な関係等を踏まえ、両者の間に性行為があったか否かという観点から、両者のメールのやり取りを再度精査することとする。
と判示して、以下のとおりメールの内容を精査して個別に評価をしています。
Zのメールのうち『肉体関係は諦めたとしても あなたとの楽しみや喜びは失っていないと信じています。』…などのメールは、 …性的な欲望を抑え性行為を諦める心情を示すものであり、同じく『俺は 俺の性欲と闘っているのさ』 及び『結婚を解消していない俺があなたの体を求めることはいけないことだ(後略)』などのメールも …葛藤しながらも、性的な欲望を抑え、被告に性行為を求めることを自制しているという認識を示すものであって、 いずれも本件不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い。
次に、被告のメールのうち『私は恋人でも彼女でもない。シアリングパートナーだから。』…などのメールは、 自分は、Zと性的な関係にはなく、あくまで相互学習における分かち合いの相手(シェアリングパートナー)という立場であって、それに徹するべきという認識を示すものであり …これらも本件不貞行為の存在を前提にするものとは考え難い。
このような被告とZのメールのやり取りに鑑みると、前記…で述べた推認(注:性行為に及んだとの推認)には重大な疑問を差し挟む余地があるといわざるを得ない。
メールの中で『不倫』という言葉を使用したことについて…上記のようなメールのやり取りを両者の特殊な関係等を踏まえて解釈し直せば …被告が両者の関係について『不倫』という言葉を使用したからといって、直ちに本件不貞行為の存在を認めることはできない。
ラブホテルを利用したという事実についても、以下のように判示して被告の主張を排斥できないと認定しています。
また、被告は、Zと一緒に旅行して同室に宿泊し、しかも、ダブルベッドの設置された部屋やラブホテルに宿泊することもあったことについて、 その理由として、学習に関するDVDの視聴、書物の読み合わせ、ロールプレーや分かち合いを行うために、プライバシーが保障される空間や設備が必要であることや、 …料金を低額に抑えられることを挙げるが、Zと同室に宿泊したりラブホテルを利用したりした理由として相応のものといえるから、 被告の上記主張をおよそ合理性のない弁解と断定して直ちに排斥することはできない。
そして、
このように、本件不貞行為の存在について、一方で、…これを極めて強く推認させる事情があるものの、 他方で、…上記推認に重大な疑問を差し挟む事情があるため上記推認は動揺することとなり、…未だ真実性の確信を抱くには至らないから、 結論として、本件不貞行為の存在については、証明不十分といわざるを得ない。
として、不貞行為についての立証が不十分であり、不貞行為を認定することはできないと結論付けています。
ラブホテルへの滞在や宿泊という事実は、多くの場合、性行為を伴うものであるため、性行為が推認されることになりますが、 その推認を覆すような具体的な主張や反証がある場合には、不貞行為が認定されない可能性もあるということを示す事例として参考になるものと思われます。
一般的には、ラブホテルへの滞在や宿泊の事実が明らかな場合、不貞行為が認定される可能性が高いといえます。
しかし、民事訴訟において事実が認められるためには、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることが必要です。 本件のように、客観的には不貞行為が強く疑われる状況であっても、それを揺るがすような事情が存在し、裁判官が確信を抱くに至らなければ、真偽不明として請求は退けられてしまいます。
本裁判例でも、例えば、メールにおいて性行為が行われていることを前提としたやり取りなどがあれば、結論は変わっていた可能性があります。
したがって、慰謝料を請求する側としては、ラブホテルへの滞在等の確実性の高い証拠がある場合でも、その他の証拠(メール・LINEのやり取り等)とも丁寧に照合して、 不貞行為が行われているということを多角的に示していく必要があるといえるでしょう。
不貞行為による慰謝料請求や、逆に請求を受けてお悩みの方は、専門家である弁護士にご相談いただくことを強くお勧めします。
名古屋総合法律事務所では、慰謝料についてのご相談をお受けしています。
慰謝料請求をお考えの方は、一度ご相談ください。
令和8年3月2日に名古屋家庭裁判所にて請求すべき按分割合に関する処分審判申立事件 について家事審判を申立てました。
令和8年3月2日に東京家庭裁判所にて婚姻費用分担調停申立事件について家事調停を申立てました。
令和8年3月2日に東京家庭裁判所にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件について家事調停を申立てました。
令和8年3月5日に名古屋地方裁判所にて慰謝料支払債務不存在確認請求事件について判決が言い渡されました。
令和8年3月6日に名古屋家庭裁判所にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件について調停が成立しました。
令和8年3月10日に山口家庭裁判所下関支部にて審判前の保全処分申立事件について保全処分を申立てました。
令和8年3月10日に山口家庭裁判所下関支部にて子の監護者指定、子の引渡し審判申立事件 について家事審判を申立てました。
令和8年3月17日に名古屋家庭裁判所にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件について調停が成立しました。
令和8年3月18日に岐阜家庭裁判所にて婚姻費用分担調停申立事件について調停が成立しました。
令和8年3月19日に名古屋家庭裁判所岡崎支部にて婚姻費用分担調停申立事件について家事調停を申立てました。
令和8年3月31日に名古屋家庭裁判所岡崎支部にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件 について家事調停を申立てました。
令和8年2月9日に名古屋家庭裁判所にて婚姻費用分担調停申立事件について家事調停を申立てました。
令和8年2月9日に名古屋家庭裁判所にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件について家事調停を申立てました。
令和8年2月9日に名古屋家庭裁判所にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件について家事調停を申立てました。
令和8年2月13日に名古屋家庭裁判所にて婚姻費用分担調停申立事件について調停が成立しました。
令和8年2月13日に名古屋家庭裁判所にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件について調停が成立しました。
令和8年2月20日に名古屋家庭裁判所にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件について調停に代わる審判が出ました。
令和8年2月25日に名古屋家庭裁判所にて夫婦関係調整(離婚)調停申立事件について審判が確定しました。
令和8年1月14日に離婚給付等にかかる裁判外の和解が成立しました。
令和8年1月16日に名古屋家庭裁判所にて審判前の保全処分申立事件 について審判が出ました。
令和8年1月16日に名古屋家庭裁判所にて子の監護者指定審判申立事件 について審判が出ました。
令和8年1月23日に名古屋家庭裁判所にて面会交流調停申立事件 について調停が成立しました。
令和8年1月23日に名古屋家庭裁判所にて婚姻費用分担調停申立事件 について調停が成立しました。
弁護士 劉 可心
配偶者の不貞が疑われるとき、配偶者や不貞相手への慰謝料請求を検討している方は少なくありません。しかし、実際に慰謝料を請求するためには、不貞行為があったことを裏付ける証拠が必要です。
もっとも、「どのようなものが証拠になるのか」「LINEのやり取りや写真だけでも足りるのか」といった点は、一般の方にはなかなか分かりにくいところです。実際、弁護士として「LINEのトーク履歴」を見ることは非常に多いのですが、「これだけでは不十分かもしれない」と感じることも少なくなりません。
この記事では、どのような証拠があると良いか、解説します。
不貞という言葉の意味は、「浮気」や「不倫」とは同義ではありません。人によって浮気や不倫のラインは異なりますが、不貞とは一般的に「配偶者のある者が、自由な意思に基づいて、配偶者以外の者と性的関係(肉体関係)を結ぶこと」を言います。すなわち、不貞に該当するためには自由な意思による性交渉(性行為又は性交類似行為)が行われていることが必要です。配偶者以外に恋愛感情を持つことや、頻繁に食事をしたり連絡を取ったり、遊びに行ったりする行為自体は、それだけでは不貞行為には当たりません。
したがって、不貞の慰謝料請求をしたいのであれば、性交渉をしていることを推認できるような証拠が必要となります。
不貞の有無は、1つの証拠だけで決まるとは限らず、複数の証拠を組み合わせて判断されることも少なくありません。しかし、その中でも推認力の高い証拠というものは存在します。たとえば、下記のようなものが考えられます。
このような証拠があることは非常に稀ですが、性交渉があったことをそのまま記録した証拠ですので、当然、一番強力なものと言えるでしょう。このような証拠を自発的に取りに行くこと自体は、法的にはリスクがあるため控えた方がよいと思われますが、たまに不貞している側が自分で写真・動画を撮っていたり、自動車内の不貞行為の場合はドライブレコーダーに残っていたりします。
ラブホテルという施設の特性や、密室である自宅で一緒に宿泊しているということに鑑みると、性交渉の事実が強く推認されることになります。探偵を付ける場合は、このような証拠の獲得を目指すと良いでしょう(※費用全額を請求できるとは限らないため、どこまで依頼するべきか注意は必要です)。特に、一緒に出入りしているとなおのこと強力と言えるでしょう。付随して、自動車が施設内や自宅付近の駐車場に駐車されている証拠もあれば、より強力です。
なお、顔が鮮明に映っていないと同一性が争われることもあるため、この点には注意が必要です。
経験則上、人は一般的に噓をついてまで自己に不利益な事実を認めることはないと考えられますので、配偶者や不貞相手が、自己に不都合な事実を認めるような証拠は強力です。ただし、それをもう一方の相手方との関係でどこまで使用できるかというとやや微妙なところはあります。基本的には、自白をした本人との関係では強力な証拠になると考えるべきでしょう。
不貞をした配偶者が夫側か妻側かでやや考え方が変わる部分ではありますが、たとえば夫側が不貞をしており、第三者との間に認知した子どもがいるような場合(夫の戸籍の身分事項欄に記載されます)や、中絶同意書や中絶証明書等を所持しているような場合は、第三者との間に性交渉があったことが強く推認されます。
妻側が不貞している場合は、夫との間に長期間、性交渉がないことが証明されないと基本的には子が夫の子であると推認される関係上、やや難しいところがあります。その場合、たとえば出産した子のDNA鑑定を実施し、夫との自然科学的な親子関係が否定される場合は、不貞したことが強く推認されるでしょう。
内容によると言わざるを得ません。たとえば、性交渉があったことが示唆・記載されているような内容であれば、それなりに推認力のある証拠となります。もっとも、その場合でも実際にその日に配偶者が不在にしていたとか、不貞相手と配偶者が一緒にいることがSNSに投稿されているとか、ホテル等の利用履歴・レシート等他の補助的な証拠があった方が良いでしょう。
他方で、単に親密な内容というだけで、具体的に性交渉があったことが読み取れないような場合は証拠価値が低いと言わざるを得ません。同じように、待ち合わせて食事に行った、外で接触していたという事実だけでは不貞行為を推認することは難しいと言えるでしょう。
本記事では一般的に推認力の高いと考えられる証拠や、LINEのトーク履歴の証拠の価値について解説しましたが、他にも様々な証拠が考えられます。また、強い証拠がない場合は、手持ちの様々な証拠を組み合わせて不貞行為を推認させる立証方針を取ることになります。
現在どのような証拠を持っているかによっても、続けて証拠収集すべきかどうか等、今後取るべき対応が変わってきますので、不貞慰謝料請求を検討されている場合は、一度弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
調停委員
田中
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
調停委員
中村
相手方
佐藤春子
裁判官 加藤
申立人
佐藤一郎
相手方
佐藤春子
裁判官
加藤
弁護士 渡邊 佳帆
最近は暗号資産(ビットコイン、イーサリウムなど。いわゆる「仮想通貨」)をはじめとする、いわゆる「デジタル財産」の価値が大きくなっています。 「デジタル財産」という言葉の意味について、法律上明確な定義はありませんが、電子データとしてインターネットや端末上に存在する資産を指すと考えられています。
さて、離婚した場合、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産の分与をすることになります。これを財産分与といいます。
暗号資産などのデジタル財産も、夫婦が婚姻期間中に協力して築いた財産であれば、「共有財産」として、財産分与の対象となります。
婚姻関係が続いていても、別居によって夫婦の経済的協力関係が実質的に終了した場合には、それ以降に取得した財産は財産分与の対象とならないのが通常です。 ただし、単身赴任のように夫婦の協力関係が続いている場合には、別居していても共有財産と評価されることがあります。
デジタル財産を購入する際の元手となった資金が婚姻期間中(別居前)の給料である場合や、同期間に得た物品を売却した対価として得た場合は、財産分与の対象になります。
店舗やインターネットで物を購入したり、サービスを使用したりする際に付くポイント、マナカなどの交通系ICカードの残高、QRコード決済のチャージ残高等の電子マネーも「デジタル財産」にあたり、 婚姻期間中(別居前)に取得したものであれば財産分与の対象になります。しかし、額が大きい場合はともかく、ポイント等は一つひとつ残高を確認することが煩雑であることから、実際には計上しないことも多いと思います。
デジタル財産は、通帳や不動産と違って実体があるわけではないので、相手方配偶者がデジタル財産を有していても、把握することは容易ではありません。
相手方配偶者が正直に開示をしてくれれば良いのですが、隠されてしまっている場合は自分で存在を突き止める必要があります。
暗号資産交換業者(マネーパートナーズなど)から相手方配偶者に対して、郵送物やメールの送付があった場合、相手方配偶者はその業者にアカウントを有し、そこで暗号資産を管理している可能性があります。 パソコンやスマートフォンにアプリを入れている可能性もあります。銀行の通帳に取引履歴やATMの振込履歴にも記載があるかもしれません。 一定の利益が生じた場合は確定申告が必要になるため、確定申告の書類を確認することも有効です。
これらの資料は別居後には集めることが相当困難になるため、同居中に確認し、発見した場合には、写真や(できれば)コピーを取っておくことが望ましいです。
しかし、なんらかの暗号資産を管理していることがわかっても、どの暗号資産をどの程度保有しているかを確認することまではできない可能性があります。
その場合は、郵送物やメール、取引履歴等の写真やコピーを相手方に提示して、デジタル財産の存在を把握していることを相手方に伝え、残高等の開示を求めることが考えられます。 それでも応じない場合は、弁護士会照会や裁判所の調査嘱託等の手段を検討することになります。
デジタル財産が財産分与の対象になるとして、財産をどう評価すればよいのでしょうか。
財産分与においては、株式や不動産など価値が変動する財産については、分与時(離婚訴訟の場合は口頭弁論終結時、財産分与請求審判の場合は審判時)を基準として金銭評価することが実務上のルールになっています。 事実上は、いつの時点の評価額を基準とするかについて、当事者間の合意を形成することが多いです。暗号資産は値動きが大きいため、すんなり合意を形成できない場合も少なくありません。
財産分与においては金銭ではない財産(不動産・株等)も金銭に換算したうえで、金銭によって分与することが原則です。そのため、デジタル財産も金銭に換算して、分与の際は金銭で支払うことになります。
しかし、近年のデジタル財産の価値上昇により、換算して支払うに足る十分な金銭がないことも考えられます。そのような場合は、当事者間で合意ができれば、デジタル財産そのものを渡すことも考えられます。
財産分与について合意ができても、相手方が払わないことも考えられます。その場合は、裁判所を通じて強制執行をすることになりますが、デジタル財産も強制執行の対象になります。
日本において暗号資産を保有している人のほとんどは、暗号資産交換業者から暗号資産を購入して、当該業者に暗号資産を預託する形態をとっていると言われています。
この形態においては、暗号資産を保有している元配偶者は、暗号資産交換業者に対して、暗号資産の移転を目的とする債権(暗号資産移転請求権)を有していると言えます。 この「暗号資産移転請求権」を「その他の財産権」として、強制執行の対象とする考え方が一般的です。
交通系ICカードのように、お金の前払い(チャージ)をして、対価に相当する価値をもって弁済にあてる(たとえば、改札にタッチして電車に乗る)タイプの電子マネーの場合は、 資金決済法により、金銭による払い戻しが原則として禁止されています。そのため、払戻請求権を観念できません。
その場合は、電子マネーの価値をもって、発行者又は加盟店から受けるサービス・物品の給付に対する代価の弁済に充当を請求する権利を、「その他の財産権」として、強制執行の対象とすることになります。
一方で、アプリ等を利用したQRコード決済のように、資金を預け入れるだけで、特定の目的の対価として入金するわけではない場合 (例えば、加盟店における商品の代価の弁済や、第三者への送金や、自分の金融機関口座への出金に利用することもできるなど)は、払出請求権を観念できます。 この払出請求権を「金銭債権」として強制執行の対象とします。
暗号資産や電子マネーなどのデジタル財産も、基本的には通常の財産と同様に財産分与の対象になります。
もっとも、価格変動が大きいことや、保有状況の把握が難しいことなど、従来の財産とは異なる問題点もあります。
離婚時にデジタル財産の扱いでお悩みの場合は、専門家に相談することをおすすめします。
期日間で調査官調査が行われました。
調査の内容が調査報告書にまとめられました。
調停委員
田中
調査官調査はいかがでしたか。
健太との生活をしっかり確認してもらいました。
健太からも調査官の方に自分の考えを伝えることができたようです。
調査報告書を見ても、やはり、親権者は私の方がよいと思います。
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
わかりました。
それでは、親権者について、春子さんの意向も確認します。
一度、待合室でお待ちください。
調停委員
田中
調査官調査はいかがでしたか。
緊張してしまい、何を聞かれ、何を話したか忘れてしまいましたが、報告書で確認しました。
ちゃんと話せたと思います。
相手方
佐藤春子
調停委員
中村
改めて、報告書を読んで、親権についてのお考えをお聞かせください。
健太がどのような生活をしているのか、報告書から知ることができました。
健太は、現在の生活を楽しんでいて、変えたくないと思っていることがわかりました。
夫も家事に挑戦しているようですね。
残念ではありますが、健太のためです。親権者は夫とすることを受け入れます。
相手方
佐藤春子
調停委員
中村
わかりました。重い決断だったと思います。
親権は一郎さんとすることに同意することを、一郎さんにお伝えしてもよろしいですか。
はい。お願いします。
相手方
佐藤春子
調停委員
田中
わかりました。お伝えします。それでは、一度、待合室でお待ちください。
調停委員
中村
さきほど、親権について春子さんのお考えを伺いました。
春子さんは、報告書を読んで、健太さんの現在の生活を知りました。健太さんのために、親権者を一郎さんとすることを受け入れるとのことです。
そうなんですか! 妻は、健太のことを考えてくれて決断してくれたんですね。
ありがたいと思います。
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
前回の調停で課題となっていた、養育費、面会交流について具体的にご検討されましたか。
はい。
やはり養育費については月額5万円は欲しいです。
大きな決断をしてくれた妻には悪いですが、これまでのことがありますから、妻には面会交流は絶対にさせたくないです。
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
養育費については春子さんのお考えとすり合わせましょう。
面会交流については、お子さんの意向を尊重した取り決めができるよう話し合います。
お子さんにとって、お父さんもお母さんもかけがえのない親です。子どもが健やかに育っていくためには一方の親だけでなく、両親から成長を見守られ、愛されることが必要です。
あくまでも、お子さんの健全な成長のために行うことを忘れてはなりません。健太さんが心配なのであれば、いきなり春子さんと健太さんのお二人で会わせるのではなく、別の方法を考えましょう。
二人だけで会わない方法というのは、どういう方法でしょうか。
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
例えば、ファミレスで春子さんと健太さんの面会交流を行い、少し離れた座席から一郎さんが見守るのでしたら、健太さんにとっても一郎さんにとっても安心ではないでしょうか。
月に一回位、一回1時間位から始めたらいいと思います。
へえ、それでしたらできそうかなと思います。
申立人
佐藤一郎
調停委員
田中
一度、待合室でお待ちください。
調停委員
中村
一郎さんから、養育費、面会交流の希望をお聞きしました。
養育費は月額5万円希望されています。
面会交流は、例えばファミレスで春子さんと健太さんの面会交流を行い、少し離れた座席から一郎さんが見守る、という方法で、月に一回、一回1時間から始める、ということではどうかということでした。
これをお聞きになって春子さんのご意見はいかがですか。
養育費は月額2万円が限界です。
面会交流については、もっと健太に会いたいですが、そうですね、それくらいから始めたほうが良さそうですね。
相手方
佐藤春子
調停委員
田中
わかりました。
一郎さんにお伝えします。
調停委員
田中
春子さんからは養育費は月額2万円でお願いしたいそうです。
一郎さんが希望する5万円と春子さんの希望する2万円と少し開きがあります。
こういう場合に、裁判所から「養育費の算定表」が提案されています。
縦軸が義務者(春子さん)の年収金額、横軸が権利者(一郎さん)の年収金額で線を引いて、交わった金額が妥当と考えられる養育費の金額です。
佐藤さんの場合、この辺り(養育費の算定表を示しながら)の2万円になるのではないでしょうか。
妻の収入がそんなに多くないという実情は私も分かります。 私の方でも、養育費と面会交流について再度検討します。
申立人
佐藤一郎
このあと財産分与についても双方から考えを聞いた。
お互いに落としどころを検討することで、第4回の調停終了。
約1か月後に第5回の調停が設定された。
調停委員
田中
親権についてお考えになりましたか。
当然、私は親権獲得を主張します。
相手方
佐藤春子
調停委員
田中
わかりました。
親権については調査官調査をすることで、裁判官に確認しましょう。
それから本日は、面会交流についての話をしましょう。
調停委員
中村
現状、春子さんは健太くんと会えていませんが、面会交流について、いかがお考えでしょうか。
月に1回は健太と二人で会いたいです。ショッピングモールで半日程度過ごしたいです。仮に夫が親権者になっても、この面会交流はしてほしいです。
相手方
佐藤春子
調停委員
田中
春子さんのお考えはわかりました。
調停委員
中村
春子さんは親権獲得を主張されるそうです。
親権については調査官調査をすることで、裁判官に確認しましょう。
それから本日は、面会交流についての話をしましょう。
春子さんと健太くんの面会交流についていかがお考えでしょうか。
健太は妻のことを嫌っています。妻がパニックになって暴れたことが健太のトラウマになっているようです。
健太と妻が二人きりで顔を合わせる面会交流をするのは無理だと思います。
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
わかりました。
その後、裁判官より調査官調査の実施が告げられたため、調査の日時が決まりました。
また、お互いに財産を開示し、養育費、面会交流、財産分与を検討することで第3回の調停終了。約1か月後に第4回の調停が設定される。
期日間で双方財産目録を提出する
調停委員
田中
前回の第1回の調停から約1か月経ちましたが、今のお気持ちはいかがですか。
あれからいろいろ振り返りましたが、夫に対して人権を無視した発言をしてしまったかもしれません。夫が精神的苦痛を感じたこともわかる気がします。
私も子どもに対して騒ぎたてたことについても、反省しています。
離婚を受け入れなければならないのかしらと思い始めました。
でも子どものことが心配でやっぱり踏み切れません。
「母親優先の原則」ではないでしょうか。
相手方
佐藤春子
調停委員
中村
親権を決めるポイントは、これまでの監護実績・監護の継続性・今後の監護体制の見通し・
子どもの意思の尊重と言われます。必ずしも、母親であれば優先されるというわけではありません。
春子さんとしては、離婚については検討していただけているということでよろしいですか。
はい、でも親権はやはり私が取りたいです。
男手で子どもは育てられませんよ。
相手方
佐藤春子
調停委員
田中
子どもの親権は子どもが自分の意思を表明することができる年齢になっている場合、子ども自身の意思が最大限尊重されます。
監護実績や子どもの意思を確認する方法として、「調査官調査」というものがあります。
心理学・社会学・教育学などの専門的知見を収めた専門家である家庭裁判所調査官が、直接、子どもに会って話を聞いたり、自宅へ行って生活状況をみたり、通学する学校へ行って先生に話を聞いたりします。
佐藤さんの場合は、調査官調査をすることになるかもしれません。
そうなんですね。
相手方
佐藤春子
調停委員
田中
では、一郎さんにも調査官調査のことを提案してみます。
一度、待合室でお待ちください。
調停委員
田中
春子さんからお話を伺いました。
離婚についても検討されているとのことです。 ただ、親権は春子さんがとりたいと希望されています。
また、「こんな事もできないのなら、いっしょに死のう」と言い出すに違いないです。
妻には子どもを平穏に育てていくことは無理だと思います。
申立人
佐藤一郎
調停委員
田中
子どもの親権は子どもが自分の意思を表明することができる年齢になっている場合、子ども自身の意思が最大限尊重されます。またこれまでの監護実績も大切です。
監護実績や子どもの意思を確認する方法として、「調査官調査」というものがあります。
心理学・社会学・教育学などの専門的知見を収めた専門家である家庭裁判所調査官が、直接、子どもに会って話を聞いたり、自宅へ行って生活状況をみたり、通学する学校へ行って先生に話を聞いたりします。
佐藤さんの場合は、調査官調査をすることになるかもしれません。
裁判所の方が子どもに話を聞くのですか。
私たちの家に来るのですか。学校の先生にも話を聞きに行くのですか。
申立人
佐藤一郎
調停委員
田中
普段の一郎さんと健太さんの生活の様子をそのままお話しすれば大丈夫です。
そうなんですね。
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
裁判官に調査官調査の実施について確認します。


調停委員
中村
調停委員
田中
(申立人が運転免許証を提示する。)
調停委員
田中
調停委員
中村
調停委員
田中
調停委員
中村
申立人
佐藤一郎
調停委員
田中
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
調停委員
中村
調停委員
田中
(相手方がマイナンバーを提示する。)
調停委員
田中
調停委員
中村
調停委員
田中
調停委員
中村
調停委員
田中
相手方
佐藤春子
調停委員
中村
相手方
佐藤春子
調停委員
田中
調停委員
田中
申立人
佐藤一郎
調停委員
中村
申立人
佐藤一郎
弁護士 渡邊 佳帆
熟年離婚を検討されている方からのご相談の際、よく聞かれることがあります。
それは、「配偶者はあと数年で定年です。ここまで我慢したのですから、財産分与のことを考えると、退職金が出るまで離婚は待った方がよいのでしょうか?」ということです。
財産分与とは、「婚姻期間中に、夫婦が協力して築いた財産の分与」です。原則、夫婦が協力して築いた財産は夫と妻とで半分ずつに分けます。別居を開始した時点で、夫婦の経済的な協力関係は終了したとみなされます。そのため、財産分与の基準時は別居開始日です。夫婦それぞれの別居開始日時点の財産を列挙して、それらを一度合算します。その合計額を2で割り、夫婦それぞれの財産額がその金額になるよう差額を埋めます。
| 財産項目 | 夫名義 | 妻名義 |
|---|---|---|
| 不動産 | 20,000,000 | 0 |
| 預貯金 | 10,000,000 | 3,000,000 |
| 生命保険の解約返戻金 | 6,000,000 | 5,000,000 |
| 退職金 | 7,500,000 | 0 |
| 社内預金 | 6,000,000 | 0 |
| 株 | 500,000 | 1,000,000 |
| 車 | 300,000 | 400,000 |
| ローン | -18,000,000 | 0 |
| 計 | 32,300,000 | 9,400,000 |
| 足して2で割った額 | 20,850,000 | |
| 分与額(受け取れる額) | -11,450,000 | 11,450,000 |
これが財産分与です。
財産分与については、弊所サイト「離婚Q&A
」においてもご説明しておりますので、併せてご覧ください。
退職金は夫/妻が労働した結果得られるお金です。夫/妻が労働できるのは、妻/夫の支えがあってのものと考えられるので、退職金も財産分与の対象になります(独身時代の労働の対価分は控除されます)。
退職金全額が分与の対象となるわけではなく、別居日に退職したと仮定し、その時点の退職金額を計上することになります。上記の表の、「退職金 7,500,000、5,000,000」は、別居日時点の退職金額を計上したものです。
なお、婚姻期間のほうが就職してからの期間よりも短い場合は、就職してからの期間と同居期間で按分する、あるいは婚姻時の退職金額を差し引くといった調整をします。
按分の場合の計算: 別居日時点の退職金額 ×(同居期間 ÷ 在職期間)
離婚する夫婦が若年・中年の場合は、退職金と言っても、まだまだ先の話であり、数十年後、実際に定年退職する際にもらえる金額は不明です。転職をする可能性もあります。
一方で、熟年離婚の夫婦の場合は、すでに定年退職している場合や、まもなく定年退職を迎えるため、支払われる退職金の額がわかっていることがあります。これは、熟年夫婦ならではの大きな特徴と言えるでしょう。では、熟年離婚の場合、退職金は財産分与においてどう考慮されるのでしょうか。
⑴ すでに定年退職し、退職金を受領している場合
すでに定年退職して退職金を受領している場合は、上記表における「退職金」という項目はなくなります。「退職金」は「預貯金」等他の財産に姿を変えているからです。そのうえで、別居日時点の財産を列挙して分与をします。
もし退職金の一部を費消してしまっていた場合は、費消した分はないものとして分与することになります。
⑵ まもなく定年退職を迎えるため、支払われる退職金の額がわかっているが、まだ受領していない場合
この場合は、別居日が定年退職の日より前であっても、退職金全額を財産分与の対象額として計上できるか否かが問題となります。
実務においては、別居後の勤続については配偶者の寄与がないことから、別居から定年退職までの期間がわずかであったとしても、退職時に受け取る退職金の全額を基準額とすることには消極的です。定年退職時に受け取る全額を基準額とした裁判例(東京地判平成11年9月3日)もありますが、同裁判例においては、在職期間のうち、同居期間に対応する額を算定し(退職金全額×同居期間÷在職期間)、中間利息を控除して分与額を計算しています。
熟年離婚の場合であっても、別居日時点の財産を基準として分ける、ということが原則であるのは若年・中年の離婚と変わりません。しかし、退職金が入ったとたん、配偶者が浪費してしまうことが想像できる場合は、財産分与を受ける側から見れば、退職金が預貯金等他の財産に変わってからでは遅い可能性もあります。また、同居期間が長ければ長いほど財産分与において計上する退職金の額は大きくなりますが、そのために耐えがたい同居に耐え続けるか、それで精神的にもつのか、という問題もあります。このあたりの判断には、長年の婚姻生活により、配偶者の性格を熟知なさっていることが活きるでしょう。
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