
最も重要なことは、子供を加害者から物理的に隔離することです。子供自身がDV被害を受けている場合だけでなく、子供自身がDV被害を受けていない場合でも隔離すべきです。子供は、肉親に対するDVを目撃することで心に傷を負います。また、暴力の恐怖にさらされて成長すれば、精神的に不安定になる傾向があります。さらに、子供が大人になったとき、今度は自分が加害者になりやすくなると言われています。子供への悪影響を避けるため、できるだけ早く、子供を加害者から隔離するべきです。
シェルターに一時避難する場合、子供を連れていくことができます。ただし、子供がある程度成熟した男子の場合、婦人相談所等で保護するのは不適当と判断されることもありえます。このような場合、児童相談所の一時保護所など、子どもが被害者と一緒に保護されるように配慮するべきとされています。子どもの保護に難色を示す施設に対しては、粘り強く希望を伝えるべきでしょう。

加害者から避難する際に、子供の学校を通じて、被害者の居場所が加害者に知れてしまうことがあります。
このような事態を防ぐため、子供を転校させることがあります。この場合、転校先の学校を特定されないよう、加害者からの住民票の閲覧制限の手続をとることが考えられます。また、住民票を移動させずに転校させることもできます。これは、転出先の地域の教育委員会に申請することで認められる場合があります。
DVにより、離婚等を協議中の場合、母子家庭でなくとも保育園の入所で考慮されることがあります。自治体の相談窓口を利用するのがよいでしょう。
児童扶養手当は、母子家庭を対象に支給される手当です。両親が離婚した場合や、父または母から1年以上遺棄されている場合、裁判所からDV保護命令が出され場合などに、行政庁に申請することにより受給できます。
児童手当は、中学校終了前までの児童のいる家庭を対象に支給される手当です。DV被害者が子どもを連れて避難している場合でも、避難先で児童手当を受給することができます。行政庁に支給方法を切り替える手続をとることで受給を続けることができます。
子どもと遠隔地に住む非監護親が,子どもと親子交流を行う際,交通費や宿泊費用等の費用が発生すると思います。
この親子交流に係る費用は,監護親と非監護親のどちらが負担するべきなのでしょうか。
仙台市にいる夫(非監護親)が,子ども(2歳)を連れて札幌市に転居・別居した妻(監護親)に対して,親子交流を求めるとともに,多額の交通費を自分だけが負担するのは公平ではないと主張した事案において、札幌家裁審判平成24年(2012年)4月9日は,
としました。
この審判に対して夫は不服申立てをしましたが,札幌高裁平成24年10月3日,最高裁第二小法廷平成24年12月19日決定は夫の不服申立てを斥けました。
上記審判例によると,親子交流に係る費用は,基本的に非監護親が負担するということになりそうです。
しかし,この考えを徹底すると,金銭的余裕のない非監護親は,子どもと親子交流をすることができなくなってしまいます。また,民法766条1項が,親子交流等を当事者間で協議するときには,「子の利益を最も優先して考慮しなければならない。」としていることからすると,非監護親に金銭的余裕がないという理由から,子どもが非監護親と親子交流をすることが妨げられてしまうことは,子の利益に対する配慮に欠け,妥当ではないように思います。
したがって,非監護親だけに親子交流に係る費用を負担させるのではなく,少なくとも子どもが非監護親との親子交流を望んでいる場合で,双方の経済的事情によっては,監護親にも親子交流に係る費用の一部負担を認めてもよいケースもあると思われます。
DVの被害に遭った場合、加害者と離婚することを考えるべきです。その方法は大きく分けて2通りあります。
第一に、協議離婚の方法があります。夫婦が協議し、離婚届を提出すれば離婚が成立します。しかし、DV事件の場合、協議離婚を成立させることは現実には困難でしょう。例えば、離婚の話をした途端、加害者が逆上して暴力をふるう可能性があります。逆に、加害者が泣いて謝罪したり、二度と暴力をふるわないと誓う可能性もあります。暴力を振るわれる場合はもちろん、泣いて謝罪等される場合も、被害者は、正常な判断力の下で離婚の合意にたどりつくことは難しいでしょう。
第二に、裁判所の手続を利用する方法があります。裁判所の手続内で、第三者を介在させて離婚を求めます。裁判所の手続には、主に調停、裁判があります。調停の場合は、調停委員を介在させて、双方の離婚の合意を目指します。裁判の場合は、原告が離婚を請求し、離婚事由が認められれば被告の意思に関係なく離婚が成立します。ただし、調停を経なければ、裁判をすることはできません。
裁判離婚が成立するためには、民法770条1項各号に定められた離婚事由のいずれかに該当する必要があります。離婚事由は①不貞行為、②悪意の遺棄、③3年以上の生死不明、④回復の見込みのない強度の精神病、⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由の5つと定められています。DVは、⑤その他婚姻を継続しがたい重大な事由の典型例です。
被害者が裁判で離婚を請求する場合、DVの事実を主張・立証しなければなりません。そのため、DVの証拠を集めることが大切になります。DVは目撃者等がいないことが多く、離婚が認められるためには、積極的に証拠集めをする必要があります。
暴力や暴言を記録した録音や録画は大変有力な証拠となります。病院へ行き、怪我の写真を撮ったり、診断書を作成してもらうことも有効です。このような客観的な証拠は、裁判では大変重要視されます。
病院に行く前に、警察に相談し、記録を作ってもらうと、診断書だけを提出するよりも強固な証拠が得られます。警察は、従前は民事不介入を掲げ、DVへの対応は消極的でした。しかし、DV防止法の成立以降、警察の対応は変わり、配偶者が逃げ込む場所として警察は重要な役割を果たすようになりました。
また、このような客観的な証拠以外は無意味というわけではありません。日記をつけている人であれば、いつ、どのような経緯で、どのような暴力があったのか記しておくと、その日記も証拠となります。日記に限らず、市販のノートに記すことでも証拠となります。
受けた暴力や暴言を記録するのは辛いかと思います。しかし、何の資料もない場合より、はるかに離婚が成立しやすくなります。少しずつ、気力をもって、証拠を確保することが大切です。

DVの被害に遭った場合、まず、警察や、自治体の設置する配偶者暴力相談支援センターに相談すべきです。特に、配偶者暴力相談支援センターでは、カウンセリングや安全確保、相談機関の紹介などを行っており、DV被害者への専門的支援の窓口となっています。
また、DVから逃れる必要があります。加害者に知られずに身を隠す場所がない場合、一時保護施設(シェルター)を利用することできます。シェルターとは、DVに遭った被害者を、配偶者等から隔離し保護するための施設のことです。相談窓口を利用する際、シェルターを利用したい旨を伝えましょう。
シェルターの利用資格は広く、外国人や、男性、同伴の子どもも対象となります。たとえ不法入国の外国人も、DVから保護する必要性に変わりはないため、緊急に保護を要すると認められ、かつ他に適当な援助機関が存在しない場合、入国管理当局に送致されるまでの間、一時的に保護されます(「婦人保護事業の実施に係る取り扱いについて」厚生省社会局生活課長通知)。
加害者の追及があまりにもひどいときは、他の都道府県のシェルターに入所できる場合があります。

身を安全な場所に置いたら、次に、裁判所に保護命令を申し立てることが考えられます。保護命令とは、簡潔に言うと、DV被害者が生命や身体に重大な危害を受ける恐れがある場合、被害者を保護するため、裁判所が加害者に対して発する命令をいいます。
保護命令には、①接近禁止命令、②退去命令、③子への接近禁止命令、④親族等への接近禁止命令、⑤電話等禁止命令があります。各命令の内容は以下のとおりです。
命令の効力を生じた日から6か月間、被害者につきまとったり、被害者の住居や勤務先などの付近をうろつくことを禁止する命令です。
加害者と被害者が同居している場合、被害者が引越し準備などの期間として、2か月間、加害者に対して、その住居から出ていくことを命じ、かつ期間中はその住居の付近をうろつくことも禁止する命令です。
接近禁止命令が出ている場合に、6か月間、被害者と同居する未成年の子の身近につきまとったり、住居、学校などの付近を徘徊することを禁止する命令です。 加害者が子を連れ去る等の行為に出れば、被害者が加害者に会いに行かざるを得なくなります。その結果、暴力を振るわれるおそれがあります。このような事態を未然に防止するのが子への接近禁止命令の目的です。
接近禁止命令が出ている場合に、加害者に対して、被害者の親族等の身辺につきまとったり、勤務先や住居などの付近を徘徊することを禁止する命令です。③と同様、被害者が加害者に会いに行かざるを得ない状況を未然に防止することを目的としています。
接近禁止命令が出ている場合に、加害者に対して、被害者の親族等の身辺につきまとったり、勤務先や住居などの付近を徘徊することを禁止する命令です。③と同様、被害者が加害者に会いに行かざるを得ない状況を未然に防止することを目的としています。
保護命令に違反すれば、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。
保護命令の申立ては、親族等はすることができず、被害者本人がしなければなりません。申立書を加害者又は被害者の住所(居所)地を管轄する地方裁判所に提出します。申し立てする裁判所が夜間当直をおいていれば夜間でも受理してもらうことができます。必要書類の案内、申立書のひな型等、裁判所のホームページで参照することができるので、申立ての際は参照すると良いでしょう。
DVとは、ドメスティックバイオレンスの略称で、配偶者や交際相手からの暴力を意味します。DV法は、配偶者、内縁関係の者、過去配偶者であった者による暴力を規制しています。
ここでいう「暴力」は、「身体に対する暴力」に限られず、幅広いものと考えられています。「身体に対する暴力に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動」が含まれます(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律第1条。通称DV防止法)。
DVには、次のような種類があります。

身体に対して有形力を行使することです。
例えば、殴る、蹴る、平手で打つ、 包丁などを突きつける、髪を引っ張る、たばこの火を押し付ける、物を投げつける、部屋に閉じ込める、身体を拘束するなどがこれにあたります。さらに、怪我をしているのに病院に行かせないといった行為も身体的暴力に当たります。
相手を精神的に追い詰めることです。
例えば、「誰のおかげで食えているんだ」などと言う、発言権を与えない、見下した言動をとる、交友関係を監視して口出しをする、無視をする、勝手に大切なものを捨てる、離婚したら死ぬと言う等がこれにあたります。 精神的暴力は、身体的暴力と異なり、家庭の外に発覚することが少なく、被害者は一人で抱え込み、追い詰められやすくなります。身体に傷はできなくても、PTSD(外傷後ストレス障害)を発症するような、深刻なものまであります。
性的自由を奪うことです。
例えば、嫌がる相手に一方的に性行為を強いる、避妊具の使用を拒む、性行為の際に相手の望まない行為を強要する、ポルノの閲覧を強要する、身体に関する侮辱などがあります。 性的暴力は、恥じらいのため他人に相談しにくく、表面化せず、被害者が一人で抱え込み、追い詰められていく傾向があります。
金銭的自由を与えないことで相手を追い詰めることです。
例えば、生活費を渡さない、家計を一方的に管理する、収入を明かさない、働くことを許さない、貯金を勝手に使い込む、勝手に借金を重ねるなどがこれにあたります。また、自分は働かずに、相手に労働を強制することも経済的暴力に含められます。 専業主婦が被害に遭いやすい類型といえます。
相手を社会から隔離しようとすることです。
相手の実家との付き合い(帰省や連絡)を制限する、友人関係を制限する、外出を禁止する、電話やメールの内容を把握しようとするなどがこれにあたります。
DVの被害者は、DVの環境から自力で脱却することができず、長期にわたって苦しむ傾向があります。 その原因の一つがDVのサイクルにあると言われています。

DVのサイクルとは、A→B→C→Aというように、DVの加害者の、被害者に対する言動が周期的に繰り返されることです。ハネムーン期があるために、被害者は「本当は優しい人なのに、私が未熟だから怒らせてしまう」とか「本当は寂しい人だから私が守らなくては」などの思考に陥ってしまいます。その結果、DVの被害を抱え込み、被害は顕在化しなくなってしまうのです。
DVを理由に離婚する場合には、合意による離婚と裁判による離婚の2つの方法があります。
合意による離婚は、家庭内あるいは裁判所(調停)において離婚について話し合いをして夫婦双方の合意により離婚するものです。
しかし、DV夫の中には身勝手な理由から自分の暴力を正当化する者も少なくありません。その場合には、合意による離婚は難しいため、裁判による離婚を考えることになります。
では、DVを理由に裁判離婚することはできるのでしょうか。
そもそも、裁判離婚は民法の定めている離婚事由の存在を必要とします。離婚事由として有名なのは不貞行為です。他方、民法は、直接DVを離婚事由としては定めていません。
しかし、離婚事由は「婚姻を継続し難い重大な事由」であり、不貞は1つの例示であると考えられています。ですから、DVでも婚姻を継続し難い重大な事由に当たれば、離婚事由になるのです。
DVの中でも殴る、蹴るなどの肉体的暴力は暴力の中では最も直接的かつ悪質であるため、最も離婚事由として認められやすいでしょう。
精神的暴力は、夫婦喧嘩での言い合いの中での暴言に過ぎない場合もあり、また、肉体的暴力と比べて、証拠を残しにくいため、離婚事由として認められないことも少なくありません。もっとも、精神的暴力も悪質性が高い場合には、離婚事由になります。
経済的暴力については、その内容により離婚事由になり得ます。
たとえば、夫が、専業主婦である妻に生活費を渡さないようなケースでは、経済的暴力であると同時に夫婦間の扶養義務に違反しているといえますから、婚姻を継続し難い重大な事由に当たることもあります。
一般に、離婚の原因について主として責任のある者は、離婚慰謝料の支払義務を負います。このことは、もちろんDVを理由とする離婚の場合でも妥当します。
そこで、DV夫と離婚する際には、忘れずに離婚慰謝料を請求するようにしましょう。離婚慰謝料の相場は、明確な基準はありませんが、数十万円から多くて300万円程度の幅に収まることが多いでしょう。
但し、DVにより負傷した場合や後遺症の残った場合には、ケガの治療期間や後遺症の内容により、通常の離婚慰謝料より遥かに高額の慰謝料を請求できる場合もあります。
被害を拡大しないために、どのような行為がDVなのかを理解し、自分や周囲の人が受けている行為がDVに当たらないか、その種類をしっかり把握してDV被害に気付くことが重要です。そして、DVのサイクルについて理解を深め、配偶者の言動が移り変わる様子を冷静に観察し振り返るのが良いでしょう。
Q. 離婚協議書とは何ですか?
離婚は、婚姻関係の解消です。しかし、離婚する場合には、婚姻関係を解消することだけが決まれば全て終わりではありません。
たとえば、夫婦に未成年の子がいる場合には、離婚後の親権者を決めたり、養育費の支払の有無及び金額、面会交流の有無・頻度・方法などについて決める必要があります。あるいは、婚姻中の夫婦の共有財産を清算するための財産分与、年金の分割、場合によっては、離婚原因を作った一方当事者に対する慰謝料の支払などについて決めなければなりません。
このように離婚する際には、離婚に関して夫婦の合意により様々な事柄について決めておく必要があります。離婚協議書とは、そうした離婚に関する夫婦間の合意した事柄を書面にしたものです。
離婚協議書は絶対に作成しなければならないものではありません。しかし、離婚に関して相手が約束したことをしてくれない、あるいは、約束していたのとは異なることをしてくるといった場合があります。その場合、口頭だけの約束では、内容は明確ではありませんし、後々、言った言わないの水掛け論となってしまうリスクがあります。そこで、後の紛争を防止するための証拠として、離婚協議書を作成しておく意味があるのです。
離婚協議書の作成は、もちろん、第三者の関与を交えることなく、夫婦だけで行うことができます。最近では、離婚協議書の雛形のようなものが書籍やインターネットのコンテンツを通じて取得することができますから、それを参考にして、離婚協議書を作成するとよいでしょう。
もっとも、離婚に関する取り決めについては、離婚に関する法律の問題が絡んでくるため、夫婦だけの話し合いで決めてしまうことについて不安を抱くような場合もあるでしょう。また、夫婦だけで離婚協議書を作成した場合、後々、一方の当事者から、「あれは、強要されて書かされたものだ!」などと書面の有効性について争われるようなケースもあります。そうした問題に対応するため、離婚協議書の作成について、弁護士に依頼して、法律の専門家である第三者を関与させることは一考に値するでしょう。
また、同様の観点から協議離婚書を公正証書として作成することもできます。この場合には、公正証書の案として、夫婦の話し合いの結果をまとめたものを協議離婚書を公証役場に提出し、適宜、加筆修正した上、最終的に、公証人にお墨付きをもらい公正証書として完成させます。
なお、条項を工夫すれば、協議離婚書を公正証書として作成し、相手方が合意内容を履行しなかった場合には、金銭の支払に関する約束に限定はされるものの裁判を起こすことなく強制執行の手段をとることができるというメリットがあります。
最近では婚姻費用算定表が広く普及しており、事前に算定表で婚姻費用を調べてから相談にいらっしゃる方も多くいます。
⇛婚姻費用ってなに?算定表ってなに?という方はこちらをご覧ください。
ただ、ローンの支払いをしている、子供を別々に監護している、夫が急に仕事を辞めた、家庭内別居しているなど、単に算定表に当てはめただけでは算定できない事情があることも多いのではないでしょうか。
そこで、今回から何回かに分け、算定表だけでは解決できない場合にどうしたらよいのかを考えていきたいと思います。
今回は、妻(権利者)が住んでいる自宅のローンを夫(義務者)が支払っている場合についてみていきましょう。
(以下、婚姻費用を支払う側を義務者、受け取る側を権利者と言います。そして、分かりやすくするために、義務者を夫、権利者を妻とします。)
簡単に言えば、家を出て行った夫が、妻が住み続けている自宅のローンを支払い続けている場合のことです。
例えば、妻が自宅を出て別居した場合や妻が自宅に住み続ける場合でも、多くの場合妻は家賃等を支払わなければなりません。そこで、算定表を作成する際に、妻が負担すべき住居関係費が既に考慮されています(その収入に応じた標準的な住居費等を考慮して基礎となる収入を決めています)。とすると、夫が、妻の住んでいる自宅のローンを支払っている場合、妻は住居費用を実際には負担していない一方で、夫は妻の住居関係費を負担しているといえます。また、夫は自身の新居の賃料を支払い、さらに妻の賃料相当分まで負担しているとみることもできます。
よって、(色々な言い分はあるでしょうが)基本的には、婚姻費用を算定する際にローンの支払いについて考慮するのが公平だといえます。その方法として実務上、大きく分けて二つの考え方があります。 一つ目は、住宅ローンの支払額を特別経費として控除する考え方、二つ目は算定表による算定結果から一定額を控除する方法です。簡単に言えば、一つ目が、算定表に当てはめる前に夫の年収を減額する等して考慮する、二つ目が、算定表に当てはめてから一定額をその算定された金額から控除する方法です。
一つ目の方法は、少し難しい計算をしなくてはならない場合があるので、二つ目の考え方が簡単なのかなと思います。
要するに、夫(義務者)と妻(権利者)との間で不公平が生じているので、いくらか婚姻費用を減額してあげましょう。では、いくら減額すればいいのでしょうか。夫が支払っているローンを全て控除しましょうか、いえそれでは控除する額が多すぎるから、ローンの何割かを控除しましょう。じゃあ、算定表を作るときに考慮されている住居関係費を、実際は住居費を支払っていないのだからその分控除するのはどうですか、それもいいですね、というお話です。
この中でも、実務でもよく用いられている方法を一つ紹介します。
お話ししましたように、算定表を作る際に、その収入に応じた標準的な住居費を考慮して基礎となる収入を決めているわけです。しかし、実際には妻は住居費を支払っていない代わりに夫が妻の住んでいる家のローンを支払っている。だから、実際には妻が支払っていない標準的な住居費相当分くらいは、婚姻費用を減額してあげましょうという考え方です。
以上が基本的な考え方です。
しかし、別居に至った理由、夫婦それぞれの収入額、ローンの支払額等を考慮して、婚姻費用を修正するのが相当ではない場合には、ローンを支払っていることが考慮されない場合もあります。
また、ローンの支払いは財産分与で考慮すべき事情だとして婚姻費用の算定では考慮されない場合もあります。
当事務所を御利用いただいたお客様へのアンケートから、 掲載許可をいただいたものについてご紹介しています
モラハラ(精神的虐待)における慰謝料請求は、一般的に次のような流れで進められます。
慰謝料の額には「必ずいくら」という明確な相場はありません。行為の悪質性や期間、精神的苦痛の程度、婚姻期間、双方の経済状況などを総合的に考慮して決められます。一般的には50万円〜200万円と言われますが、個別の事情によって金額は大きく異なります。
民法では、故意や過失によって他人の権利や利益を侵害した者は、その損害を賠償する責任を負うと定められています(民法709条)。また、身体や自由、名誉などを傷つけた場合、財産以外の損害(精神的苦痛)も賠償の対象となります(民法710条)。
離婚慰謝料は、離婚の原因を作った配偶者の「不法行為」に対する損害賠償としての性質を持ちます。最高裁判所も、配偶者の不法な行為によって離婚を余儀なくされた場合、たとえ直接的な暴力(身体への侵害)がなくても、離婚に至った精神的苦痛に対する慰謝料を請求できると認めています。
モラハラに関連する事情として、日常的な暴言、高圧的で激しい態度、脅迫的な言動、相手の所有物を壊す、自宅からの締め出し、土下座や過度な家事の強要などが挙げられます。
身体的な暴力がなくても、これらの粗暴な言動によって婚姻関係が破綻したと認められれば、慰謝料の請求が可能です。ただし、「夫(妻)がギャンブル好きだ」「帰宅が遅い」「モラハラを受けた」と漠然と主張するだけでは、ただちに不法行為とは認められず、慰謝料請求が否定された事例もあります。
まずは、問題となる言動について、「いつ、どこで、どのような発言や行為があったか」「どのくらいの頻度で、どのくらいの期間続いたか」「その結果、生活にどのような影響が出たか」などを具体的に整理します。
モラハラは心に対する侵害であるため、立証が難しいケースが多く、第三者から見ても「これだけのことをされれば精神的苦痛を受けるのが当然だ」と評価できる客観的な証拠が必要です。
証拠としては、メールやLINE等のSNS記録、録音・録画、日記、心療内科などの診断書、相手が謝罪したメールなどが挙げられます。
本人の証言だけで客観的な証拠がなく、相手が事実を否定したために慰謝料が認められなかった事例がある一方で、直接的な証拠が不十分でも、配偶者の両親への強い反発や普段の高圧的な態度などから「他の場面でも暴言があっただろう」と推測されて慰謝料が認められた事例もあります。
離婚と同時に請求する場合は、家庭裁判所での「離婚訴訟」の中で、離婚の請求と慰謝料の請求を一つの裁判でまとめて行うのが一般的です。
すでに離婚が成立しており、慰謝料だけを請求する場合は、地方裁判所または簡易裁判所に民事訴訟を起こすことができます。なお、個別の不法行為(暴力など)に基づく損害賠償請求は、原則として「その行為があった時点」から時効が進行するため注意が必要です。
ご自身が「〇〇万円支払ってほしい」と提示した金額が、そのまま裁判で認められるわけではありません。裁判所は認定された事実と様々な事情を考慮して適正な金額を定めます。また、調停や和解の手続きの中では、早期解決のために慰謝料額を交渉の材料として柔軟に調整することもあります。
離婚に伴う慰謝料は一般的に50万円〜200万円の幅に収まると言われ、裁判例では100万円〜300万円の範囲が多く見られます。ただし、明らかな不法行為が認められない事案では慰謝料が認められないこともあります。
慰謝料の金額は、交通事故の算定表のような固定された基準はなく、裁判所が以下の事情を総合的に判断して決定します。
実際の裁判では、どのような事情が考慮され、いくらの慰謝料が認められているのでしょうか。以下の表に過去の裁判例をまとめました。
| 裁判年月日 | 事案の概要 | 慰謝料の認否 | 認められた金額 |
|---|---|---|---|
|
昭和39年9月3日 (東京地裁) |
夫が毎晩のように遊び歩き、バーなどで接客業を営む女性を自宅に連れ込んで妻を侮辱し、他の女性との不貞関係もあった。また妻に絶対服従や過度な家事を強要し、妊娠中絶を強いるなどの行為を繰り返した事案。 | 認容 | 200万円 |
|
昭和52年7月5日 (熊本地裁) |
夫が日常的に夜遊びをし、バーの女性と不貞関係になり子どもをもうけた。また、家庭内でも妻に対して暴力を振るうことが多かった事案。 | 認容 |
300万円 ※別途、財産分与として400万円を認容 |
|
昭和51年10月29日 (東京高裁) |
夫の暴力・酒乱、勤労意欲の欠如により妻が離婚を決意し、婚姻関係が破綻。しかし妻も夫に無断で離婚届を提出し、別居後に別の男性と同棲して子どもをもうけた事案。 | 棄却 |
0円 ※妻にも破綻の責任の一半があり、離婚が認められることで十分に慰藉されると判断。 |
|
平成20年3月28日 (東京家裁) |
中国籍の夫婦。夫が、同居する妻の父親とのトラブルから家を出て別居。その後、妻が夫に無断で子どもを中国に連れ帰ったことなどを「虐待・遺棄」と主張して慰謝料を求めた事案。 | 棄却 |
0円 ※妻や妻の父親に非難される事情はなく、子どもの連れ帰りも違法とは言えないと判断。離婚と財産分与(1200万円)のみ認容。 |
離婚に伴う慰謝料は、相手の一連の問題行動によって「離婚を余儀なくされたこと全体」を1つの不法行為として扱うのが原則です。そのため、一度の裁判で慰謝料が決定した後から、「あの時の行為に対する慰謝料が足りない」と追加で請求することは、「紛争の蒸し返し」となり原則として許されません。
| 裁判年月日 | 蒸し返し(二重請求)に関する事例の概要 | 慰謝料の認否 |
|---|---|---|
|
平成19年4月17日 (広島高裁) |
夫の不貞行為に対する慰謝料請求訴訟(前訴)で300万円が認められ確定した後、妻が「離婚すること自体による慰謝料」を新たに請求した事案。 |
棄却 ※前訴で婚姻破綻に対する精神的損害の賠償がすでに認められており、新たな精神的損害は生じていないと判断。 |
|
平成21年12月21日 (東京高裁) |
妻の不貞により、夫が他人の子を実子と信じて育てていた事案。過去の離婚訴訟(前訴)で妻の背信行為に対し慰謝料600万円が確定した後、夫が「支払う必要のなかった養育費相当額」の返還や追加の慰謝料を請求した。 |
却下(慰謝料部分)・棄却 ※慰謝料について、前訴ですでに同じ事実関係が評価されており、同じ問題を再度訴えることは信義則に反し許されないと判断。 |
モラハラ慰謝料の請求においては、「金額の相場」だけを気にするのではなく、「具体的な言動・期間・頻度・婚姻生活への影響」をしっかりと整理し、それを客観的な証拠によって裏付けることが最も重要です。
裁判所は固定された算定表を使わず、すべての事情を総合的に考慮して個別に判断します。モラハラに対する慰謝料は一般的な目安として50万円〜200万円と説明されることが多いものの、証拠の有無や行為の悪質性によっては、慰謝料が認められない場合や、数十万円程度に留まることもあります。
請求をご検討の際は、まずは証拠集めの段階から弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
モラハラの加害者は、いかなる場合にも自分が正しいことを当然の前提として、被害者を責めます。
そのため、被害者も「相手が正しく自分が間違っているから怒られるんだ」と思い込むようになり、苦しい思いをしながらも、自分がモラハラの被害者であるとの意識が希薄になりがちです。しかも、被害者の「自分が間違っている」という意識は、加害者の「自分が正しい」という意識を増長させ、悪循環に陥ります。
離婚を切り出した際に、怒鳴られる、脅される、行動を制限されるといった不安がある場合は、一人で相手を説得しようとする必要はありません。
まずは、安心して過ごせる場所や、困ったときに連絡できる人・相談先を確認しましょう。同居を続けることが心身の負担になっている場合には、別居も選択肢となります。避難先や生活の支援については、配偶者暴力相談支援センターなどに相談できます。相談先が分からない場合は、DV相談ナビ「#8008」から最寄りの相談窓口につながります。
安全に準備できる状況であれば、別居先、当面の生活費、仕事、お子さまの通園・通学などを整理しておくと、その後の生活について具体的に検討しやすくなります。
「自分の収入だけでは生活できない」という不安があり、別居に踏み切れない方もいらっしゃるかもしれません。
別居していても、離婚が成立するまでは、夫婦の収入やお子さまの養育状況などに応じて、相手に生活費の分担を求められる場合があります。この生活費を「婚姻費用」といいます。
相手が支払いに応じない、金額の話し合いができない場合には、家庭裁判所の調停・審判を利用できます。別居を検討する際には、住まいの確保とあわせて、婚姻費用の請求についても確認しておきましょう。
協議離婚は、夫婦が離婚に合意し、離婚届を提出して受理されることで成立する離婚です。裁判所を利用せずに進める方法ですが、離婚することだけでなく、子どもやお金に関する条件も整理しておくことが大切です。
ただし、協議離婚だからといって、「必ず夫婦が直接会って話し合わなければならない」わけではありません。弁護士を代理人として、離婚の意思や希望する条件を伝え、交渉を進めることもできます。
相手に強く言われると自分の希望を伝えられない、話し合うたびに責められてしまうという場合は、直接のやり取りを続けることだけにこだわらず、交渉の方法を見直しましょう。
また、相手が離婚に応じない場合や、条件の話し合いが進まない場合には、離婚調停の利用を検討します。
離婚調停は、家庭裁判所で、調停委員を介して離婚やその条件について話し合う手続きです。
夫婦で話し合っても合意できない場合だけでなく、相手への恐怖などから話し合い自体が難しい場合にも利用できます。調停を申し立てる前に、無理に夫婦だけで話し合いをする必要はありません。申立先は、原則として相手の住所地を管轄する家庭裁判所、または双方が合意した家庭裁判所です。
調停では、通常、双方が別々の待合室で待機し、交互に事情を聞いてもらいながら進めます。相手と顔を合わせることや、裁判所への行き帰りに接触することが心配な場合は、事前に裁判所へ事情を伝え、進め方を相談しましょう。また、裁判所に提出した資料が相手に開示される場合もあるため、避難先の住所などを知られたくないときは、書類を提出する前に確認することが重要です。
調停では、離婚するかどうかに加え、親権、養育費、財産分与などについても話し合えます。ただし、判決のように裁判官が一方的に離婚を決める手続きではありません。離婚調停が成立するには、双方の合意が必要です。
調停でも離婚に合意できず、引き続き離婚を求める場合には、家庭裁判所に離婚訴訟を起こすことを検討します。離婚訴訟は原則として調停を経てから行う手続きであり、調停が不成立になっただけで、自動的に裁判へ移るわけではありません。
モラハラを理由に判決による離婚を求める場合は、主に民法第770条第1項第4号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるかが問題となります。相手の言動や夫婦関係の経緯などから、婚姻関係が破綻し、回復の見込みがないといえるかを検討することになります。
そのため、「モラハラを受けていた」と伝えるだけでなく、具体的にどのような言動があったのか、それがどの程度続いていたのか、生活にどのような影響があったのかを整理することが大切です。ご自身の説明を裏付ける資料についても確認します。
具体的な証拠の残し方・集め方については、後述の「モラハラの証拠の残し方・集め方」で詳しく解説します。
「早く離婚したい」と思っていても、相手から示された条件を、その場で受け入れる必要があるのかは慎重に検討しましょう。離婚後の生活を考えるうえでは、次のような事項を整理することが大切です。
| 確認する事項 | 整理しておきたい主な内容 |
|---|---|
| 子どもに関すること | 親権、子どもの生活場所や養育方法、養育費、親子交流 |
| 財産に関すること | 預貯金・不動産などの財産分与、住宅ローンの取り扱い、年金分割 |
| 慰謝料に関すること | 請求の可否、金額、支払期限・支払方法 |
これらは、離婚調停などで離婚とあわせて話し合うことができます。
2026年4月1日施行の改正により、離婚後の親権は、父母双方を親権者とする「共同親権」と、一方を親権者とする「単独親権」のいずれも選択肢となりました。離婚したら必ず共同親権になるわけではありません。
精神的DVなどにより、父母が共同して親権を行うことが困難であると裁判所が認める場合には、単独親権としなければならないとされています。相手との話し合いが難しい事情や、お子さまへの影響がある場合は、その具体的な状況を踏まえて検討することが大切です。
離婚の条件に合意した場合は、口約束だけにせず、離婚協議書などの書面に残しましょう。養育費などの金銭の支払いについては、不払いに備えて、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することも検討します。
大切なのは、相手の要求をそのまま受け入れることではなく、ご自身とお子さまの生活に必要な条件を確認したうえで、離婚の進め方を決めることです。相手との対等な立場での交渉が難しい場合は、弁護士に依頼し、間に入ってもらうこともご検討ください。
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