事務員ブログ:原告と被告とを離婚する
土志田 佳枝(名古屋総合法律事務所事務員)
裁判官が夫婦の絆を断つ瞬間、判決の主文は「原告と離婚とを離婚する」と読み上げられます。かなり昔の話になりますが、法学部の学生だった私も初めて離婚の判例を読んだときにはちょっと衝撃をうけました。
婚姻を解消させる離婚は、日本では協議離婚(夫婦で話し合って、離婚届を役場に提出することで成立します)や、離婚調停(裁判所において、調停委員も交えながら夫婦で合意を探ります)が99%を占めますから、訴訟(第一審は家庭裁判所)で離婚が成立するのはたった1%と言われています。離婚によって、基本的には婚姻から生じる効果は解消され、再婚が可能になります。このように、判決で新しい身分がかたちづくられることを求める訴えのことを形成(けいせい)の訴えといいます。
すこし前に、日本人妻とオーストラリア人夫の間で外国離婚の日本における有効性が争われた東京家庭裁判所判決平成19年9月11日(家庭裁判月報60巻1号108頁;判例タイムズ1255号299頁)をご紹介しつつ、民事訴訟法118条所定の要件を満たしていればそれが外国の裁判所で言い渡された離婚であっても、日本で承認される(日本でも外国離婚の効果が認められる)ことについて触れました。今回は、日本に離婚の国際裁判管轄権があるかどうか(日本の裁判所で離婚を請求することができるかどうか)が争われた最高裁第二小法廷判決平成8年6月24日(民集50巻7号1451頁;家月48巻11号53頁)を取り上げたいと思います。
この事件では、子を連れて日本に帰国し、居住していた日本人夫に対して、ドイツ人妻がドイツの裁判所に離婚の請求をし、離婚判決が認められていたという事実が前提としてありました。ただし、ドイツの裁判所が公示送達(訴状が日本に居る夫に届けられず、ドイツの裁判所に公示されるという方法)によったため、日本では118条の2「敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと」の規定によりドイツ判決が承認されず、ドイツでは離婚が成立し、日本では婚姻したままという国際的に不調和な身分関係が生じてしまいました。
また、ドイツでは既に判決が確定していますから、ドイツに夫が離婚の訴えを提起しても却下されてしまう可能性がありました。そこで日本の最高裁は「右の事情を考慮すると、本件離婚訴訟につき我が国の国際裁判管轄を肯定することは条理にかなうというべきである」と述べ、離婚の国際裁判管轄の点についてドイツ人妻がした上告を棄却しています。原審である東京高裁は第一審判決を取り消して、第一審である浦和地裁越谷支部に差し戻していましたから、日本における国際裁判管轄権が肯定されたことで、日本で離婚について審理が開始されたと考えられます。
本判決に対しては、櫻田嘉章教授が評釈のなかで、「みずから『緊急』状況(あるいは跛行離婚状況)を生み出している者に救済のための管轄を認める根拠に乏しいのではないか」と最高裁の判断に辛口の意見を述べられています(別冊ジュリスト210号〔国際私法判例百選第2版〕211頁)。
ただ個人的に本判決がとても興味深いのは、最高裁大法廷判決昭和39年3月25日が「わが国に離婚の国際裁判管轄権が認められないとすることは、・・・わが国の法律によっても離婚の請求権を有すべき者の身分関係に十分な保護を与えないこととなり」と述べていたように、原告が裁判を受ける権利を国際裁判管轄の判断のなかで考慮することについて、横溝大教授の指摘されているようにもともと好意的な土壌があることを示しているように思えるからです(法学協会雑誌115号5巻698-699頁)。皆さんはどう思われるでしょうか。
(2013年 2月14日)
事務員ブログ:インターナショナルな国内法・・・(・_・?)
土志田 佳枝(名古屋総合法律事務所事務員)
前回、外国法(パキスタンのイスラム法)を適用して離婚を認めた名古屋地裁岡崎支部昭和62年12月23日判決をご紹介しました。ところで、国際結婚や離婚、国際取引から生じる問題に適用される国際私法は、れっきとした国内法です。ご存知でしたでしょうか。インターナショナルな語感から、「あれっ」と思われる方もいらっしゃることでしょう。
今回は、外国裁判所で下された離婚判決の日本における効力が争われた裁判例についてご紹介します。東京家庭裁判所判決平成19年9月11日は、オーストラリアの裁判所で下されたオーストラリア人夫と日本人妻の離婚判決が無効であることを確認し、オーストラリア判決にもとづいていったんは日本の市町村役場に届出がなされ、受理されていた離婚が無効であるとの判断を示しました。
この事件は、外国判決の承認について、民事訴訟法118条の1(外国裁判所に裁判管轄権があること)の要件を満たしているかどうかが争われたことでよく知られています。婚姻以来一度もオーストラリアに住んだことのない夫婦について、オーストラリアの裁判所が離婚を言い渡す権限があるのかどうかが争点になったのです。東京家庭裁判所は「当事者の一方が自国民でさえあれば当然のこととして管轄権を肯定するというのは、離婚事件との関連では、過剰な管轄というべきである」と述べています。この問題については横山潤教授が鑑定意見書を書かれています。
もうお気づきのように、日本の国際裁判管轄のルールにもとづけば、この事件についてオーストラリアの裁判所には裁判権はないと判断されるため、それを理由に日本の裁判所はこの外国判決を承認しませんでした。なお、別の争点で、夫は外国離婚判決の効力を判断する際の準拠法は法廷地法主義(オーストラリア家族法)によるのが通説判例の立場であると主張していますが、このような主張は失当であると裁判所から退けられています。日本法では、外国判決承認の際に準拠法の要件はありません。
おさらいですが、国際私法の出番は、すなわち当事者全員が外国人(または無国籍者)ないし外国法人である場合はもちろんですが、当事者の一方でも外国人(または無国籍者)ないし外国法人である場合、係争の目的となっている物が外国にある場合、事故が起きたのが外国だった場合などです。なお、法廷地が日本なら、「手続は法廷地法による」との原則から、日本の国際私法がある意味強行法規として適用されます。法廷地が中国なら、もちろん中国の国際私法(「渉外民事関係法律適用法」)が適用されることになります。
ただし、日本には国際私法という名前の法律はありません。準拠法の選択については法の適用に関する通則法、国際裁判管轄に関しては民事訴訟法3条の3、外国判決の承認の要件については民事訴訟法118条、外国判決の執行については民事執行法24条が適用されます。
なお、念のため付け加えますと、通則法によって指定されるのは、私法(民法や商法など)に限られます。つまり、「私」法の適用に関する通則法なのです。ですから、租税法などの公法についてはあてはまらないのです。
(2014年5月20日)
事務員ブログ:国際離婚
土志田 佳枝(名古屋総合法律事務所事務員)
日本の裁判所は、外国法だって適用します。ご存知でしたか。まだ法学部の学生だったころに、イスラム法を適用して離婚判決を下した名古屋地裁岡崎支部判決昭和62年12月23日(判例時報1282号143頁)を読んで初めて私は知りました。この事件では、日本人妻からイスラム教徒のパキスタン人夫に対する離婚請求につき、パキスタン国の法律(イスラム法)を適用して離婚が認められました。この判決については手塚和彰『外国人と法 第3版』(有斐閣・2005年)178頁・注1)にも簡潔に取り上げられています。
このような国際離婚の事案(渉外事件といいます)を解決するためには、まず、わが国の裁判所に裁判を行う権限があるのかどうかが問題となります(国際裁判管轄の有無)。次いで、どの国の法律を適用するかが問題となります(準拠法の指定)。国際裁判管轄に関する法律については2010年の民事訴訟法の改正で立法されたところですが、この問題については別の機会に譲り、ここでは準拠法の選択について少しお話ししたいと思います。
日本には「法の適用に関する通則法」(以下では「通則法」と略します)という法律があります。離婚については、「通則法」27条を見れば、どの国の法律を適用すればよいのかがわかるようになっています。「通則法」とは、2006年に「法例」という法律を改正して成立した比較的新しい法律です。先の名古屋地裁岡崎支部の判決では、改正前の「法例」16条を見て、パキスタン国の法律に準拠して、離婚ができるかどうかが判断されました。
改正前の「法例」16条には「離婚ハ其原因タル事実ノ発生シタル時ニ於ケル夫ノ本国法ニ依ル」とありますから、この事件では、夫である被告の本国法すなわちパキスタンの法律によるべきことになります。さらに、パキスタンでは宗教により、身分法が異なります。夫はイスラム教徒でした。そこで、パキスタン国で通用するイスラム法に照らして、離婚の成立について検討がなされたのです。
この点、1939年ムスリム婚姻解消法2条2項には、「イスラーム法に基づいて婚姻した女性は、夫が二年間にわたって妻の扶養を懈怠し、または出来なかった場合には婚姻解消の判決を取得することができる」と規定されていました。名古屋地裁岡崎支部は、夫婦関係破たんの具体的事実をこれにあてはめ、日本人妻の離婚請求には理由があると判断したのです。なお、改正前の「法例」16条は但書で「裁判所ハ其原因タル事実カ日本ノ法律ニ依ルモ離婚ノ原因タルトキニ非サレハ離婚ノ宣告ヲ為スコトヲ得ス」と定めていましたから、裁判所はこの点についても検討を加え、日本の民法770条1項5号所定の婚姻を継続しがたい重大な理由にも該当すると述べています。この判決については、大村芳昭教授によって評釈が書かれています(ジュリスト1048号111頁)。
その後、「通則法」が成立してからも、日本の裁判所においてイスラム法の適用が問題となった事例はいくつかあります。宇都宮家庭裁判所審判平成19年7月20日の養子縁組許可申立事件(家月59巻12号106頁)では、「通則法」42条を適用し、養子縁組を認めないイランのイスラム法を適用することは公序に反し許されないとし、日本法を適用しました。また、東京家庭裁判所審判平成22年7月15日の親権者変更申立事件(家月63巻5号58頁)においても、子の親権者を父から母に変更することを認めないイランのイスラム法の適用を「通則法」42条により排除し、日本法を適用しています。
ここまでお話ししたことは、国際私法という分野で扱う内容です。現に国によっては、同じ国のなかでも宗教により身分関係を律する法律が異なりますから、準拠法選択の結果として、その国に通用するイスラム法が適用されることもあるわけです。ただし、イスラム法適用の結果が、日本における公の秩序を壊すようなおそれがある場合には、例外としてその適用は排除されます。先の二つの審判は、その結果として日本法を適用しました。外国法の適用事例については、また機会がありましたら、ご紹介させていただきたいと思います。
(2013年 2月14日)
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